事業譲渡とは?買い手・売り手のメリットやデメリット、手続き方法や流れなどを解説します
事業譲渡とはM&A手法の1つで、企業の保有している事業の全部もしくは一部を譲渡することです。複数の事業を保有する企業が特定の事業へ資源を集中させるために事業を売却するケースや、新規事業を展開しようとする企業が効率よく収益化を目指すために事業を買収するケースなどがあります。
具体的にどのようなメリット・デメリットがあり、どのように手続きを進めていくのでしょうか?事業譲渡を検討している企業の参考になるよう解説します。
事業譲渡とは?
事業譲渡とは、企業が展開している事業の全て、もしくは一部を売却することです。ここでいう事業は、ある目的のために組織化されたひとまとまりの財産で、個別の価値の合計より高い価値を持っているものをいいます。
この財産には、事業に関わる全ての資産や債務、取引先との関係、知的財産、ブランド、設備や備品などのリース契約、従業員との雇用関係などが含まれます。
事業譲渡の特徴
事業譲渡で売却するのは事業のみです。売り手企業はそのまま残りますし、経営権も手放さないため、経営体制が事業譲渡の前後で変わることはありません。
また、事業譲渡によって発生した対価を受け取るのは売り手企業です。事業譲渡により得た対価が、売却した資産の簿価や事業譲渡のためにかかった費用より多ければ利益が発生し、税金の対象となります。
事業譲渡の種類
事業譲渡には、全部譲渡と一部譲渡の2種類があります。
全部譲渡は売り手企業の全ての事業を買い手企業に譲渡する方法、一部譲渡は売り手企業の一部の事業を買い手企業に譲渡する方法です。
事業譲渡と他のM&A手法との違い
M&Aには事業譲渡以外にも、株式譲渡・会社分割・合併などの手法があります。それぞれの特徴と、事業譲渡との違いを確認しましょう。
1.事業譲渡と株式譲渡の違い
株式譲渡とは、売り手企業の株式を買い手へ売却し、買い手が経営権を引き継ぐM&A手法のことです。経営権を買い手へ渡すことで、企業を丸ごと売却する取引といえます。
株式を売買する手続きのみで済むため、引き継ぐ資産ごとに手続きが必要な事業承継と比べると比較的簡単に実施可能です。
ただし事業譲渡と異なり、株式譲渡では買い手は引き継ぐ資産を選べません。プラスの資産はもちろん負債といったマイナスの資産や、表面化していない簿外債務といったリスクも全て引き継ぎます。
2.事業譲渡と会社分割の違い
会社分割は組織再編に該当する手続きで、自社が持つ一部の事業を分割し、買い手企業が承継する手法です。分割する事業に関連した権利義務を買い手が丸ごと引き継ぐため、事業譲渡のように資産ごとに手続きをする必要はありません。
買い手から売り手へ支払われる対価が、原則として買い手側の株式であるのも事業譲渡との違いです。事業譲渡のように現金の獲得を目的に実施することはないでしょう。
3.事業譲渡と合併の違い
合併は複数の会社を1つにする手法です。売り手企業は合併後に消滅し、その権利義務は買い手の持つ存続企業へ丸ごと吸収されます。合併の前後では組織の形態が大きく変化するため、債権者の利益を守るために債権者保護手続が必要です。
一方、事業譲渡を実施しても、売り手企業は存続します。また資産や契約などの権利義務の移転について、個別に手続きし承諾を得なければいけないため、債権者保護手続については定められていません。
事業譲渡のメリット
事業譲渡には売り手側にも買い手側にも様々なメリットがあります。双方のメリットを具体的に見ていきましょう。
売り手側のメリット
売り手側のメリットは、以下のとおりです。
- 現金を獲得できる
- 事業の「選択と集中」を実施できる
- 経営権を保有し続けられる
- 出席した株主の議決権3分の2以上の同意で実施できる
- 事業承継できる
それぞれのメリットを詳しく解説します。
1.現金を獲得できる
事業を売却すると、売り手企業は事業の価値に見合う現金を獲得できます。売却する事業の将来性を評価している買い手や、相乗効果を期待できる事業を展開している買い手と契約が成立すれば、まとまった金額を受け取れるかもしれません。
獲得した現金は、新規事業を始めたり、今ある事業の規模を拡大したり、経営資金に充てられます。
2.事業の「選択と集中」を実施できる
多角化経営を実施していると、利益を得やすい中心的な事業と、利益につながりにくい事業が出てきます。利益につながりにくい事業を事業譲渡で切り離し、売却して得た利益やそれまでつぎ込んでいた資金を、利益を得やすい事業へ使うのが「選択と集中」です。
売り手企業が得意としている分野の事業へ、企業の持つ資金や人材などの資源を集中させられるため、経営の効率化を実現できます。
3.経営権を保有し続けられる
売り手企業が全ての事業を売却したとしても、企業そのものやその経営権は、これまでどおり保有し続けられます。
例えば事業譲渡で獲得した現金で、これまでと異なる事業を新たに始めたいと考えている場合に、有効な手法です。企業の経営状況が悪化しているとき、業績の悪い事業のみを売却し経営状況の改善を図りたい、といった場合にも活用できます。
4.出席した株主の議決権3分の2以上の同意で実施できる
会社法第467条には、事業譲渡を行うとき、買い手企業は株主総会で事業譲渡契約の承認を受けなければいけないと定められています。出席した株主の保有する議決権の3分の2以上の同意があると承認される「特別決議」による承認です。
また売り手企業の議決権の9割以上を保有する「特別支配会社」へ売却する場合や、売却する事業の帳簿価額が売り手企業の純資産額の5分の1を超えない場合には、株主総会の特別決議を実施することなく事業譲渡できます。
会社を丸ごと売却する株式譲渡では、株主全員の同意を得られず手続きが進まないケースもあるでしょう。事業譲渡は、株主総会による承認の手間や時間をかけずに進められる手法といえます。
5.事業承継できる
後継者がおらず、事業を次の世代へ引き継ぐことができない場合、事業譲渡によって買い手へ事業承継することもあります。
後継者が不在のままでは経営者が引退したタイミングで事業をたたまなければいけません。事業がなくなれば従業員は仕事を失いますし、取引先や顧客にも迷惑がかかるでしょう。独自の技術が失われる恐れもあります。
事業譲渡を実施し、買い手が事業を継続すれば、従業員の雇用を守れますし、取引先や顧客へこれまでと同じように商品やサービスを届けられます。独自の技術を将来へ残すことも可能です。
買い手側のメリット
買い手側のメリットは、以下のとおりです。
- 予算の範囲内で買収できる
- リスクを引き継がずに事業が手に入る
- 新規事業を効率的に展開できる
3つのメリットについて、詳細をチェックしましょう。
1.予算の範囲内で買収できる
会社を丸ごと買収する株式譲渡の場合、かかるコストは大きくなりがちです。買収にかけられる予算が限られている場合には、必要な事業のみを買収することで費用を抑えられる事業譲渡が向いています。
2.リスクを引き継がずに事業が手に入る
株式譲渡によって会社を丸ごと引き継ぐ場合、買い手は売り手企業の持つリスクも引き継ぎます。例えば帳簿に記載されない、未払い給与・訴訟案件・保証などの簿外債務です。
簿外債務は事前に資料を調査しても見つけられない場合があります。事業譲渡で必要な事業のみを買収する場合、簿外債務といったリスクを引き継ぐことなく事業を獲得可能です。
ただし、引き継いだ事業が何らかのリスクを抱えている場合もあるでしょう。契約を結ぶ前に、引き継ぐ事業について詳細な調査を行うことで、リスクを回避しやすくなります。
3.新規事業を効率的に展開できる
新規事業を展開するとき、一から始めるには膨大なコストと時間がかかります。最初は赤字が続き、経営状況が悪化することもあるでしょう。
事業譲渡で新規参入する事業を買収すれば、必要な設備・人材・ノウハウ・仕入先・販路などをまとめて獲得できます。買収後すぐに利益を得られる可能性もあり、すぐに新規事業を軌道に乗せられる方法です。
今、市場で流行している商品やサービスを、素早く自社の事業として展開したいと考えている場合にも有効です。
事業譲渡のデメリット
事業譲渡は売り手にも買い手にもメリットがありますが、一方でデメリットもあるので注意が必要です。事業譲渡を検討する場合、事前にどのようなデメリットがあるのか知っておくと良いでしょう。事業譲渡のデメリットについて説明します。
売り手側のデメリット
売り手側のデメリットは、以下のとおりです。
- 税金がかかる
- 必要な手続きが多く煩雑になる
- 譲渡後の事業に制限がある
1.税金がかかる
事業譲渡で利益が発生すると法人税の対象になります。課税対象の利益は「売却額-譲渡資産の簿価」で算出可能です。
また土地や有価証券などの消費税非課税資産を除く資産に対しては、消費税が課されます。負担するのは買い手ですが、納付は売り手が行わなければいけません。
2.必要な手続きが多く煩雑になる
事業譲渡の手続きは、資産ごとに行わなければならず、複雑になりやすいのがデメリットです。売り手企業の保有している製造業を売却するケースで見ていきましょう。
工場の建物や土地を売却する契約なら不動産登記の手続きが必要です。リースしている設備があれば、リース契約を結び直さなければいけません。取引先との契約や従業員との雇用契約も締結し直す必要があります。
買い手が取引先や従業員と信頼関係を築き、スムーズに契約できるようサポートが必要です。事業の規模が大きくなるほど、事業譲渡に必要な手続きは増え煩雑になります。
3.譲渡後の事業に制限がある
会社法第21条には競業避止義務が定められています。同じ市町村や隣接する市町村において、原則として20年間は譲渡した事業と同じ事業の運営が禁止される規定です。
売り手は事業に関する資産を買い手へ売却しても、それまでのノウハウや人脈など事業に役立つ資源を持っています。それらの資源を活用し、買い手が事業を展開する地域で同一の事業を実施すれば、買い手の事業と競合してしまうでしょう。
買い手が事業譲渡により期待していた利益を得られず、損をする事態を避けられるよう、競業避止義務が定められています。
事業を売却し新たな事業を始める計画をしている場合は、競業避止義務に触れる内容となっていないか、あらかじめ確認しておきましょう。
買い手側のデメリット
買い手側のデメリットは、以下のとおりです。
- 事業譲渡が完了するまで手間も時間がかかる
- 人材流出のリスクがある
- 許認可を取得し直す必要がある
- 消費税がかかる
1.事業譲渡が完了するまで手間も時間がかかる
事業譲渡は契約や許認可等が引き継がれません。事業譲渡の契約を締結すると、資産の名義変更や契約の締結・許認可の取得などの手続きが必要です。
例えば雇用契約であれば、従業員に対し事業譲渡や今後の方針について説明する機会を設け、不安を払拭した上で雇用契約を結び直す必要があります。場合によっては個別の面談や相談も実施しなければいけません。
全ての手続きが終わるまでに、手間の時間がかかる手法です。
2.人材流出のリスクがある
事業譲渡では雇用契約は自動的に引き継がれません。買い手は従業員との間に雇用契約を結び直す必要があります。
このとき従業員への対応が不十分だと、雇用契約を結び直せず、人材流出につながりかねません。従業員の技術やノウハウがあるからこそ成り立っている事業では、従業員が辞めてしまえば当初見込んでいた利益が得られなくなることもあるでしょう。
従業員も事業を運営する上で欠かせない財産の1つです。確実に契約を結べるよう、売り手企業の協力を得ながら進めていく必要があります。
3.許認可を取得し直す必要がある
許認可を取得できるのは申請手続きを行った事業者です。事業譲渡では事業者が変わるため、買収するのが許認可を必要とする事業であっても、買い手は許認可を引き継げません。
手続きが遅れると、事業譲渡が完了しても営業できない事態も起こり得ます。関係省庁へ相談しつつ事業譲渡を進める必要があります。
4.消費税がかかる
買収した事業に関わる資産に、以下にあげる消費税課税資産が含まれていれば、買い手はこれらの資産にかかる消費税を負担します。
- 建物や機械装置などの有形固定資産 ※土地以外
- 特許権やのれん代などの無形固定資産
- 原材料や商品在庫などの棚卸資産
事業譲渡の予算は消費税も考慮しておかなければいけません。
事業譲渡が向いているケース
M&Aには株式譲渡や会社分割など複数の手法があります。その中で事業譲渡が向いているケースを、売り手・買い手ごとに見ていきましょう。
事業譲渡が向いている売り手
売り手が事業譲渡を選ぶと良いのは、以下のようなケースです。
- 企業を再建させたい
- 自社に資産を残したい
- 好調な部門に経営資源を集中させたい
企業を再建させたい
事業譲渡が向いているケースとしてあげられるのが、企業を存続させたまま再建したいケースです。事業譲渡では経営権を譲渡しないため、企業を存続させたまま再建を目指せます。
事業の売却で得た対価を運転資金に回したり、人材を集中させたりすることで、経営状況を改善していけるでしょう。
自社に資産を残したい
技術やノウハウ・販路・土地・有価証券などの資産を自社に残したい場合には、事業譲渡が向いています。会社を丸ごと売却する株式譲渡と比べ、事業譲渡では何を売却するか自由に設計しやすいため、必要な資産を残しつつ、事業を売却可能です。
好調な部門に経営資源を集中させたい
同じ企業で好調な事業と不調な事業が出てきたとき、このまま不調な事業に経営資源を割いていても思うような利益が期待できないなら、事業譲渡で売却した方が良いかもしれません。
不調な事業のみを切り離すことで、資金や人材などの経営資源を好調な事業へ集中させられます。さらに事業譲渡で利益が出てまとまった資金を獲得できれば、その資金を好調な事業へ投資できます。
経営資源を集中させることで、さらなる発展を目指す戦略として活用可能です。
事業譲渡が向いている買い手
- 簿外債務を引き継ぐリスクを避けたい
- 買収資金がそれほど多くない
簿外債を引き継ぐリスクを避けたい
どれだけ事前に調査をしても、帳簿に記載されない簿外債務を全て把握するのは難しいことです。売り手でさえ認識していない簿外債務もあります。買い手が万が一のリスクを避けたいと考えている場合も、事業譲渡が向いているでしょう。
買収後に思わぬ債務が発覚し、経営に影響を及ぼす心配がなくなります。
2.買収資金がそれほど多くない
買い手の買収資金が潤沢ではない場合も、事業譲渡が向いています。買収する範囲を必要な事業のみに限定することで、買収金額を抑えられるためです。限られた予算内で買収を検討している場合に有効といえます。
事業譲渡の流れ・手続き方法
事業譲渡は以下の流れに沿って行われます。
- ニーズの発生・検討
- 事業譲渡の準備
- ソーシング・交渉の開始
- 秘密保持契約から基礎情報の開示
- トップ面談
- 基本合意書締結(MOU)
- デュー・デリジェンス(DD)
- 取締役会による決議
- 事業譲渡契約の締結
- クロージング
- 規模の大きな企業で必要な手続き
事業譲渡の流れ・手続き方法について、順番に見ていきましょう。
1.ニーズの発生・検討
事業譲渡について検討し始めるタイミングは、売り手と買い手で異なります。
売り手企業の場合、代表的なタイミングは経営再建を目指すときです。不調な事業を売却し、メインの事業に集中するために事業譲渡が役立ちます。後継者が不在で事業承継ができないときも、事業譲渡による課題解決を検討し始めるタイミングの1つです。
買い手企業の場合、事業規模の拡大や新規事業への参入などを効率的に成功させる目的で事業譲渡を検討するケースが考えられます。
2.事業譲渡の準備
売り手企業では売却する事業を決定し、買い手企業の条件を絞り込みます。このとき事業を買収することで相乗効果を得られるのはどのような企業か、精査することが重要です。
適切に事業の価値を判断するためにも、事業から今後得られるであろう利益や、事業に関連する資産の価値などを、客観的に把握します。
買い手企業は買収する目的を明確にしなければいけません。その上で目的を達成できる事業はどのような特徴を持っているかを検討し、売り手企業を探す必要があります。
3.ソーシング・交渉の開始
M&Aの相手先候補を探し、交渉するのがソーシングです。売り手は事業の概要・売上・従業員数・取引先などの情報を匿名でまとめたノンネームシートを、買い手候補へ提示し交渉相手を募集します。ただしソーシングを自社のみで行うのは難しいため、金融機関や仲介業者、税理士などを通じて実施するのが一般的です。
買い手は売り手候補のリストを作成し、求める条件をクリアしている売り手を絞り込みます。
4.秘密保持契約(NDA)から基礎情報の開示
事業譲渡を行う相手候補が見つかったら秘密保持契約を締結します。事業譲渡を行うとき、売り手は買い手が買収を判断できるよう、事業に関する機密事項を開示しなければいけません。万が一開示した情報が漏えいしたとき、責任の所在を明らかにするために秘密保持契約が必要です。
売り手が基礎情報を開示したら、買い手はその基礎情報を基に事業譲渡を行うべきか検討します。
5.トップ面談
基礎情報の開示によって事業譲渡の実現性が高まってきたらトップ面談を行います。売り手・買い手の意思決定権者同士で行う面談です。
トップ面談では人間関係の構築や経営理念の共有をします。必要に応じて複数回面談を実施することも珍しくありません。
6.基本合意書締結(MOU)
トップ面談を行い、事業譲渡を行うことで合意したときに締結するのが基本合意締結書です。法的な拘束力を持たせないのが一般的ですが、最終的な契約書のベースになる重要な書類でもあります。
売り手が他の買い手候補と交渉するのを制限する独占的交渉権や、買い手が実施する詳細な調査であるデュー・デリジェンスの実施などについて、明確にする書類です。
7.デュー・デリジェンス(DD)
デュー・デリジェンスは譲渡対象事業の実態調査によって正確に状況を把握し、正しく価値を算定することを目的に行われます。事業譲渡契約を締結するのにふさわしいか買い手が判断するための調査です。
調査範囲は税務・法務・労務など多岐にわたります。各分野の専門家でなければ判断が難しい部分もあるため、専門家へ依頼すると安心です。
デュー・デリジェンスを実施するとき、売り手は必要な書類を調査しやすいようそろえたり、聞き取り調査に応じたりする必要があります。
8.取締役会による決議
売り手企業は取締役会を開いて決議を行います。ただし「特別支配会社」へ売却する場合や、売却する事業の帳簿価額が売り手企業の純資産額の5分の1を超えない場合は、取締役会による決議は必要ありません。
決議終了後、事業譲渡の日程表や事業譲渡覚書等の書類を作成し、代表取締役が株主総会の承認を得ることを条件に事業譲渡契約の締結を行います。
9.事業譲渡契約の締結
売り手の社内決議が完了したら、売り手と買い手で事業譲渡契約を締結します。事業譲渡契約書に記載する主な項目は以下のとおりです。
- 譲渡内容
- 譲渡対価
- 支払方法
- 財産の移転手続き
- 譲渡日
- 競業避止義務
- 契約の引き継ぎ
- 従業員の引き継ぎ
なお、買い手側が事業に必要な許認可を得ていない場合は、先に許認可を取得する必要性があります。
10.クロージング
事業譲渡契約が無事に締結されたあとは、締結した事業譲渡契約書の内容に基づき、クロージングを行います。不動産の移転登記をはじめとする、引き継ぐ権利義務を買い手へ移管するための手続きです。
また取引先の引き継ぎや従業員との雇用契約の締結も含まれます。買収後に買い手がスムーズに事業を運営できるよう、売り手のサポートが必要です。
クロージングはこれらの手続きを全て行う必要があるため、一定の日付で一気に終わるものではありません。数ヶ月ほどかかる場合もあります。
11.規模の大きな企業で必要な手続き
規模の大きな企業や上場企業が事業譲渡を行うときには、以下の手続きも必要です。
- 臨時報告書の提出
- 株主総会での承認
- 公正取引委員会への届出
有価証券報告書を提出する義務がある会社で、重大な事象が発生したときに内閣総理大臣へ提出が必要なのは「臨時報告書」です。併せて株主への通知や公告も行います。
また株主総会での承認も受けなければいけません。事業譲渡承認株主総会は取締役会で株主の招集、株主名簿の閉鎖、株主総会の日程等の決議を行います。
買い手の国内売上高合計額が200億円を超え要件を満たしている場合には、公正取引委員会に事業譲渡届出書の提出も必要です。
事業譲渡の注意点
スムーズに事業譲渡を行うには、注意点を把握しておくと良いでしょう。早めの準備や誠実な対応で、納得のいく事業譲渡を実施できます。
1.早めに準備する
事業譲渡には時間がかかります。売り手も買い手も希望に合う事業譲渡を実施するには、早めの準備が欠かせません。売り手であれば事前に買い手へ提示する書類を見やすように整理しておくと、秘密保持契約を締結後に速やかに資料を提示できますし、デュー・デリジェンスへも対応しやすくなります。
自社の持つ資産について、客観的に把握することもポイントです。業界全体の動向と併せ、自社のポジションや今後の見通しを理解しておくと、買い手へ効果的にアピールできます。
買い手であれば事業譲渡を行う目的を把握しておきましょう。予算や期間も明確に設定することで、自社に効果的な買収を決定しやすくなります。新規事業への参入を計画している場合には、参入予定の業界研究も必要です。
2.誠実に対応する
売却する事業についての情報を1番知っているのは売り手です。事業に関する情報を隠すこともできます。ただしデュー・デリジェンスの段階でうそがばれると、買い手の信頼を失いかねません。そのまま契約が白紙に戻ることも起こり得ます。また事業譲渡後にうそが発覚すると、損害賠償を請求されることもあるでしょう。
誠実な対応が必要なのは買い手も同様です。例えば過度な値引き交渉を行うと、売り手の協力を得られず、取引先の引き継ぎや従業員の雇用がスムーズに進まない可能性があります。
事業譲渡で発生する税金
事業譲渡では、獲得した利益や買収した資産に応じて税金を納める必要があります。売り手と買い手で納める税金の種類は異なりますが、どちらも優遇税制がない分、納税額が大きくなりがちです。
事業譲渡を行うときには、事業譲渡金額の他にどのような税金を納める必要があるのか確認しておくと良いでしょう。ここでは売り手・買い手にかかる税金について解説します。
1.売り手側に発生する税金
売り手に発生する税金は法人税等です。事業の売却価格から譲渡資産の簿価を差し引いた譲渡益に対して、実効税率34%の法人税等が課されます。
例えば事業譲渡の利益として3,000万円受け取った場合、その他の売上が例年どおりであれば、その年の法人税等は1,020万円例年より多くなります。
また売り手が課税事業者であれば、消費税の納税も行わなければいけません。諸費税を負担するのは買い手ですが、消費税は売り手が納付する仕組みになっているためです。
ただし事業譲渡を行ったとき、全ての資産に消費税が課されるわけではありません。土地・株式や債権などの有価証券・売掛金といった債権は非課税対象遺産のため、消費税の対象外です。
買い手へ請求する事業譲渡の対価を計算するときには、消費税の計算に注意しましょう。
2.買い手側に発生する税金
買い手に発生する税金は消費税・不動産取得税・登録免許税です。
消費税は課税対象資産に対して10%の税率で課されます。納付は売り手が行いますが、負担は買い手が行う点に注意が必要です。課税対象資産が多いほど消費税の負担額が増えるため注意しましょう。
事業譲渡で不動産を引き継ぐなら、不動産取得税の納付も必要です。税率は取得する不動産によって、以下のように定められています。
- 建物:固定資産税評価額×4%
- 土地(宅地評価):固定資産税評価額×2分の1×3%
- 土地(宅地評価以外)固定資産税評価額×3%
不動産を引き継ぐ場合には、登録免許税も納付しなければいけません。不動産取得税と同様、不動産の種類によって税率が決まっています。
- 建物:固定資産税評価額×2%
- 土地(宅地評価):固定資産税評価額×1.5%
- 土地(宅地評価以外)固定資産税評価額×1.5%
事業譲渡した際の会計処理
事業譲渡を行うと、資産の移転が発生するため、会計処理が必要です。どのような会計処理が必要なのでしょうか?売り手・買い手の例を紹介します。
1.売り手の仕訳
売り手が仕訳を行うときには、左側の借方へ買い手から受け取った対価の金額を記入しましょう。右側の貸方へ記入するのは、売却した資産の帳簿上の価格である簿価です。対価と資産の簿価の総額の差が、利益となります。
事業譲渡の対価として1億円を受け取ったとき、資産の簿価が棚卸資産2,000万円・設備3,000万円・のれん代2,500万円の場合なら、以下のように記載します。
借方 | 貸方 | ||
勘定科目 | 金額 | 勘定科目 | 金額 |
現預金 | 1億円 | 棚卸資産 | 2,000万円 |
設備 | 1,000万円 | ||
土地 | 3,000万円 | ||
のれん代 | 1,500万円 | ||
事業譲渡益 | 2,500万円 |
2.買い手の仕訳
買い手が仕訳をするときには、左側の借方へ買収した資産を、右側の貸方へ支払った対価を記入します。このとき買収した資産の金額は、時価で記載する点に注意しましょう。売り手のケースの買い手側の仕訳は以下のとおりです。
借方 | 貸方 | ||
勘定科目 | 金額 | 勘定科目 | 金額 |
棚卸資産 | 2,000万円 | 現預金 | 1億円 |
設備 | 1,000万円 | ||
土地 | 5,500万円 | ||
のれん代 | 1,500万円 |
まとめ
事業譲渡は売り手企業の保有する事業の全部もしくは一部を売却するM&A手法の一種です。
売り手にとっては企業を残しつつ、特定の事業を売却することで資金を獲得できる方法といえます。買い手にとっても必要な事業に限定し買収できるため、予算が限られている場合に役立つ方法です。
自社の状況によっては、事業承継によって経営再建や事業拡大を目指していけるでしょう。ただし事業承継をスムーズに実施するには専門知識が必要です。自社に今在籍している人材のみでは対応しきれない可能性もあります。
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