表明保証とは?違反した場合や必須の内容、表明保証保険について解説

投稿日: 投稿者: M&A BASE

M&Aにおける表明保証とは、相手企業に対して特定の事項が真実かつ正確であることを表明し、内容を保証することです。

表明保証はM&Aの株式譲渡契約でよく用いられる一方で、貸付契約でも一般的に活用されています。

M&Aでは、買い手企業が売り手企業に対して買収監査を実施して、売り手企業のリスクや問題点を把握した上で、最終的な金額や条件を決定します。

しかし、買収監査の期間に余裕があるケースは珍しく、調査が不十分でM&Aを実施した後に問題が見つかるケースもあります。

このようなトラブルを避けるために、買い手企業は売り手企業に内容が保証されている表明保証条項の記載を求めます。この記事では、表明保証の意味や目的、重要性について解説していきます。

買い手企業と売り手企業ごとの注意点や、表明保証保険に関する内容も解説しているので、ぜひ参考にしてください。

この記事でわかること

  • 表明保証の目的・重要性・役割
  • 表明保証の内容
  • 表明保証の注意点
  • 表明保証で違反が見つかった場合の対処法

表明保証とは?

M&Aにおける表明保証とは、相手企業に対して特定の事項が真実かつ正確であることを表明し、内容を保証することです。一般的には、法務や税務、財務に関する事実が間違っていないことを保証することで、M&Aの最終的な契約書には必ず記載されています。

M&Aを実行する際には、買い手企業が相手企業を調査する「デューデリジェンス」というプロセスがあります。

関連記事:デューデリジェンス(DD)とは?費用や種類、進め方をわかりやすく解説

しかし、デューデリジェンスは基本的に短期間で進める事になるため、すべてのリスクを把握できない可能性も高いです。そのため、M&Aの契約書に表明保証という項目を用意して、売り手企業に調査した内容を保証してもらいます。

また、表明保証は中小企業のM&Aシーンでも重視されています。中小企業は法務や税務、財務などの管理体制が確立されていないことも多いため、リスクを把握していない状態でM&Aを実行するケースも珍しくありません。

このようなトラブルを避けるために、表明保証は非常に有効な予防線といえるでしょう。

表明保証の目的

表明保証の主な目的は、M&A実施後のトラブルを避けることです。もともと表明保証はアメリカで実務的に行われていたもので、最近日本でも活用されるようになりました。

親族のみで経営している会社や、短期間で急激に成長した会社などは、法務や税務、財務などの管理がずさんな場合も珍しくありません。

また、M&Aにおいては表面的な情報では確認しづらい内容も多く、さまざまな問題点をを知らずにM&Aを実行するリスクがあります。表明保証はM&Aを実行するリスクを最小化するために、必要な項目といえるでしょう。

最近では、大手企業から中小企業まで、M&Aを行うなら欠かせない存在になっています。ただし、表明保証の設定や取り扱いは非常に難しいため、専門家に依頼するのが一般的です。

表明保証の重要性

M&Aを実行すると、売り手企業の法的リスクや問題点は、買い手企業が負担することになります。そのため、買い手企業は会社が成長できる価値があるのか、既存事業に支障をきたす問題が発生していないかなどを調査します。

このような調査を​​デューデリジェンスと言って、買い手企業はコストをかけて売り手企業のリスクを把握します。買い手企業としては、デューデリジェンスの調査内容を売り手企業が保証してくれると、リスクを最小化できます。

売り手企業としても、リスクや問題点がないことを保証することで、M&Aの交渉を円滑に進めることができます。買い手企業だけでなく、売り手企業にもリスクを分散させることが、M&Aにおける表明保証の重要性です。

表明保証の役割

次に、表明保証の役割について解説していきます。M&Aにおける表明保証の役割は主に、以下の2つです。

  • デューデリジェンスの補完
  • リスクの低減

それぞれ詳しく解説していきます。

1.デューデリジェンスの補完

競合他社以外とM&Aを行う場合、相手企業の情報が不十分な場合も珍しくありません。そのため、買い手企業は売り手企業に対して、デューデリジェンスを必ず実施しますが、得られる情報には限界があります。

また、デューデリジェンスを短期間で完了しなければいけない場合は、得られた情報に確証が持てないこともあるでしょう。しかし、売り手企業が開示した情報が表明保証されていれば、買い手企業は情報の調査や確認を行う必要がありません。

表明保証違反のリスクは売り手企業が負うことになるため、買い手企業は安心して交渉を進められます。デューデリジェンスにおいては、より多くの表明保証が盛り込まれた契約書を提案した方が買い手企業の負担が少なくなります。

2.リスクの低減

表明保証を行った会社は、「表明保証をした事項が真実かつ正確であること」に対して責任を負います。「表明保証をしていない事項については責任を負わない」という内容でもあるため、買い手企業と売り手企業で、どの範囲まで責任やリスクを負うか明確になります。

表明保証が契約書に記載されることによって、買い手企業と売り手企業に情報量の差が激しいケースでも、お互いに契約しやすい関係性になるでしょう。

また、「買い手企業がデューデリジェンスを実施するなら、会社のリスクを把握している。だから表明保証は不要だ。」と考える売り手企業もいます。しかし、デューデリジェンスを行ったから、という理由で買い手企業がすべての責任やリスクを負うのは、あまり現実的ではありません。

M&Aのリスクをお互いに分配・低減することが、表明保証の重要な役割です。

表明保証の内容

一般的に表明保証は、最終契約書の中に記載されることになります。表明保証の内容は、会社の状況や契約によって異なるため、個別に決定する必要があります。

ただし、以下のような内容は、多くのケースで表明保証として最終契約書に記載されています。

  • 法的に設立された法人であること
  • 適切に許認可を取得している(許認可を持っている場合)
  • 反社会的勢力ではないこと、反社会的勢力と関わりがないこと
  • 財務諸表に記載されていない債務がないこと
  • 税金などの不払いがないこと
  • 訴訟や紛争がないこと
  • デューデリジェンスの内容に間違いがないこと

M&Aが実施された後、数年後に表明保証違反が発覚する場合もあるため、契約ごとに保証期間を設定しておきましょう。また、表明保証違反が見つかった場合の、損害賠償請求や契約解除に関する条件を盛り込んでおくことで、被害を最小限に抑えられます。

表明保証における買い手企業の注意点

M&Aのリスクを抑えて、円滑に交渉を進めるために表明保証は欠かせません。

しかし、以下2つのポイントには注意しておきましょう。

  • 入念にデューデリジェンスを行う
  • 問題が見つかったら即座に対応する

それぞれ詳しく解説していきます。

1.入念にデューデリジェンスを行う

適切な表明保証事項の作成を行うためには、入念なデューデリジェンスが必要です。デューデリジェンスを徹底することによって、売り手企業が隠したい内容が把握できます。

しかし、デューデリジェンスが不十分な場合、表明保証事項の作成を売り手企業がコントロールすると、将来的に重大なリスクが発覚する可能性もあります。

M&Aの交渉を有利に進めるためには表明保証によるリスク分配が欠かせませんが、そのためには入念にデューデリジェンスを行う必要があります。デューデリジェンスがおろそかになってしまうと、売り手企業が公表したくないと感じているリスクを見過ごしてしまうかもしれません。

デューデリジェンスには、コストも時間もかかりますが、トラブルを避けるために徹底して行いましょう。

2.問題が見つかったら即座に対応する

デューデリジェンスの調査の結果、問題が見つかったら即座に対応することも大切です。買い手企業が入念にデューデリジェンスを行っていると、売り手企業の表明保証違反が発覚する場合もあります。

このような場合に備えて、表明保証の契約書には、サンドバッキング条項も定めておきましょう。サンドバッキング条項とは、M&Aの表明保証において、表明保証違反に関する認識の有無に関わらず補償請求が認められる、という条項のことです。プロ・サンドバッギング条項とも呼ばれています。

つまり、サンドバッギング条項が契約書に盛り込まれていれば、深刻な問題を見過ごしたとしても、買い手企業は損害賠償を求めることができます。

表明保証とサンドバッギング条項は、セットで契約書に記載することを覚えておきましょう。

表明保証における売り手企業の注意点

表明保証について注意しておくのは、買い手企業だけではありません。売り手企業は、以下のようなことに注意しておく必要があります。

表明保証における売り手企業の注意点

  • 不利な情報でも意図的に隠さない
  • 情報の開示は明確に行う

それぞれ詳しく見ていきましょう。

1.不利な情報でも意図的に隠さない

買い手企業から情報の開示を求められた場合、不利な情報でも意図的に隠さないことが大切です。不利な情報を隠すことによって有利にM&Aの交渉が進められたとしても、リスクが発覚すると重大なトラブルに発展することも考えられるでしょう。

また、当たり前ですが、虚偽の申告も重大な契約違反です。

M&Aの交渉を進める上で、売り手企業は不利な情報を公表しなければならない場合もあるでしょう。しかし、どのような場合であっても、不利な情報を隠したり、虚偽の申告をすると、表明保証違反として訴訟を起こされる可能性が高いです。

公表したくない情報であっても、虚偽をすることなく、正しく表明保証事項を記載することが大切です。

2.情報の開示は明確に行う

明確に情報を開示しているかは、表明保証違反について争う際に重要とされるポイントです。たとえば、複数の意味で理解できる表明保証事項を作成した場合、本来の意味とは違う意味で捉えられてしまい、損害賠償を請求される可能性もあります。

最近は、表明保証違反について裁判が起きるケースも珍しくありません。M&Aの契約解除だけでなく、損害賠償が発生する可能性もあるため、表明保証事項の文章は可能な限り明確にしておくことが大切です。

そのため、買い手企業から開示を求められた情報は、正しいことはもちろん、明確に回答することも意識しておきましょう。

複数の意味で捉えられる表明保証事項が契約書に盛り込まれている場合は、買い手企業と交渉して、文章の変更を依頼してください。

表明保証保険とは

取り扱いの難しい表明保証ですが、もし違反があった場合は、多額の損害賠償を請求される可能性もあります。このようなトラブルのために、「表明保証保険」という保険があります。

表明保証保険は、損害保険の一種で、表明保証違反で発生した損害をカバーしてくれる保険です。万が一のトラブルに備えて、経済的なリスクを軽減できるため、現在では広く普及しています。

表明保証保険は、売り手企業と買い手企業で内容が異なるため、それぞれの保険内容を詳しく解説していきます。

1.売主用表明保証保険

売主用表明保証保険は、表明保証の違反が認められて、買い手企業から請求された損害賠償をカバーする保険です。加入しておくことで賠償リスクを最小限に抑えることができるため、M&Aの交渉を円滑に進めることができます。

また、売り手企業が表明保証保険に加入していると、損害金を保険で確実にカバーできるため、買い手企業からの評価も高まるでしょう。ただし、売主用表明保証保険は、買主用表明保証保険と比べると、加入率は高くありません。

買い手企業が表明保証保険に加入しているのは一般的ですが、売主用表明保証保険は必ずしも利用されているわけではないのが実情です。ただし、売主用表明保証保険を利用した方が、リスクを抑えられることは間違いありませんし、積極的に交渉を進めたいのであれば加入しておくべきでしょう。

2.買主用表明保証保険

買主用表明保証保険は、売り手企業による表明保険の違反が発覚した際に、経済的損失をカバーしてくれる保険です。M&Aの交渉中はもちろん、契約が完了した後も保険の対象となります。

表明保証は、違反時の損害賠償の上限額や請求可能期間を定めるケースが一般的です。しかし、表明保証保険では、損害賠償の上限額や請求可能期間を超えて、損害金を補てんできます。

そのため、売り手企業は損害賠償の上限額や請求可能期間を抑えることが可能で、表明保証がしやすくなります。

売り手企業に表明保証の違反があった場合でも、経済的な問題から損害賠償が回収できないケースもあります。

保険費用を支払うデメリットはありますが、万が一のトラブルの際に、確実に損害金を回収できることは買い手企業にとって非常に大きなメリットです。

表明保証に違反が見つかった場合はどうなる?

表明保証に違反が見つかった場合は、損害賠償請求や補償請求を受ける可能性があります。

契約書に記載された表明保証と事実が異なっていると、買い手企業の経済的な損失を売り手企業が補てんすることになるでしょう。

ただし、M&Aにおける表明保証の違反は、「違法」ではありません。そのため、よほど悪質なケースでない限りは、買い手企業と売り手企業で負担を調整する対応が一般的です。

表明保証の違反は、意図的に悪意を持って情報を改ざんしているケースは少なく、無自覚に違反していたというケースがほとんどです。

また、表明保証の違反が見つかった場合でも、訴訟を起こすコストや労力を考慮して、契約解除のみで買い手企業が泣き寝入りするケースも少なくありません。

表明保証に違反しているが責任を問われないケース

表明保証の違反が見つかった場合、必ずしも責任を問われるわけではありません。つまり、表明保証に違反していたとしても、責任を問われないケースがあります。

具体的には、以下2つのようなケースです。

  • 買い手企業がデューデリジェンスを行っていない
  • 買い手企業に損害が発生していない

それぞれ詳しく解説していきます。

1.買い手企業がデューデリジェンスを行っていない

買い手企業がデューデリジェンスを行っていない場合、売り手企業に表明保証の違反があったとしても責任を問われない可能性があります。買い手企業がデューデリジェンスを行っていない、もしくは明らかに怠っている場合は、「発見できるはずのリスクや問題点」として売り手企業に責任を追求できません。

そもそも、M&Aにおいてデューデリジェンスが実施されないことは、まず考えられません。

しかし、デューデリジェンスのプロセスを簡略化したり、コストを削減したりすると、M&Aを実施した後にリスクが見つかっても買い手企業が責任を負うことになります。

表明保証は、特定の事項が真実かつ正確であることを保証するものですが、その事項を適切に調査するのは買い手企業の責任です。

2.買い手企業に損害が発生していない

表明保証に違反が見つかった場合でも、買い手企業に損害が発生していないケースであれば、責任を問われない可能性があります。そのため、重大なリスクだったとしても、トラブルが発生していなければ、損害賠償請求が認められないケースもあります。

先ほどの解説した通り、表明保証の違反は「違法」ではないため、実際に被害や損失がなければ、売り手企業は経済的なリスクを負う必要がないといえるでしょう。

また、軽度な違反の場合も同様に、買い手企業に実害が出ていなければ、責任を免れる可能性が高いです。

このように、表明保証に違反している場合でも、売り手企業に責任を追求できないケースがあるため、買い手企業はデューデリジェンスを徹底的に行う必要があります。

まとめ

この記事では、表明保証の意味や目的、重要性について解説しました。M&Aにおける表明保証とは、相手企業に対して特定の事項が真実かつ正確であることを表明し、内容を保証することです。

もともとはアメリカで実務的に行われていたものですが、最近では日本のM&Aシーンでも一般的に利用されています。

売り手企業は表明保証で情報の正確性を保証しますが、必ずしも正しいとは限りません。特に、中小企業は法務や税務、財務などの管理がずさんなケースも多いため、悪意なく違反していることもあるでしょう。

表明保証事項の作成や取り扱いは難しく、適切に契約書に盛り込まれていなければ、無効になることも考えられます。そのため、社内に専門的な知識を持っている人材がいなければ、基本的に外部の専門家に依頼するのが一般的です。