PMIとは?M&Aにおける重要性や進め方、注意点を解説

投稿日: 投稿者: M&A BASE

PMI(Post Merger Integration)とは、M&Aの契約が完了してから、期待していた成果を最大化させるためのプロセスを意味します。大手企業同士のM&Aであっても、実施するだけで事業拡大や新規事業の参入に成功できるわけではありません。

そのため、PMIはM&Aを実施する上で欠かせない要項の1つといえるでしょう。この記事では、PMIの意味や重要性、進め方について解説していきます。また、M&Aを成功に導くポイントやPMIを行う際の注意点なども解説しているので、ぜひ参考にしてください。

この記事でわかること

  • PMIとは?
  • PMIの重要性
  • PMIを実施する適切なタイミング
  • PMIを成功させるポイントと注意点
  • PMIの具体的な進め方

PMIとは?

PMI(Post Merger Integration)とは、M&Aの契約が完了してから、期待していた成果を最大化させるためのプロセスを意味します。Post Merger Integration(ポスト・マージャー・インテグレーション)の直訳は、「合併後の統合」となりますが、実際には「統合後の成果を高めるプロセス」のことを指して使われているのが実情です。

PMIの具体的な業務は、経営統合・業務統合・意識統合の3つに分類されるケースが多く、いずれも成果の最大化とリスクの最小化を目的としています。M&Aの契約後、目指すべき未来や解決したい問題をクリアするために、PMIは必要不可欠なプロセスです。

なぜなら、M&Aが実施された後の買い手企業が混乱するケースは、決して珍しい話ではないためです。

そもそも「M&A」とは?

そもそもM&Aとは、「Mergers(合併) and Acquisitions(買収)」の略語で、文字通り、会社の合併と買収を意味します。狭義的な意味としては、吸収合併や新設合併などの「合併」と、株式譲渡や新株引受、第三者割当増資、株式交換などの「買収」を指す言葉です。

しかし、広義としては、資本提携や業務提携などの「提携」をM&Aに含める場合もあります。そのため、ひと口にM&Aと言っても、さまざまな手法があるのです。

M&Aの代表的な手法

  • 株式譲渡
  • 事業譲渡
  • 合併
  • 会社分割
  • 株式交換
  • 第三者割当増資
  • 資本業務提携
  • 資本参加
  • 合弁会社設立

M&Aの種類が多岐にわたりますが、いずれの手法においてもPMIの実施は必要です。M&Aについてさらに詳しく理解したい人は、以下の記事も参考にしてください。

関連記事:M&Aとは?事例からわかる目的やメリット・デメリットを解説

PMIの重要性

PMIの重要性は「統合後の混乱を防ぐこと」にあります。M&Aが実施されると、今までは別の組織だった会社が1つの会社になるため、多少の混乱は避けられません。

そのため、PMIが不十分な場合、業務上のミスや不具合の発生、従業員同士の対立による離職など、さまざまな問題が起きる可能性があります。M&Aはプロジェクトを進めていくうちに「契約合意」そのものが目的になってしまい、期待していた成果が得られないケースも珍しくありません。

統合後のプロセスまで準備していなければ、問題が起きるだけでなく、M&Aが白紙になることも考えられるでしょう。PMIを適切に進めるためには、相手企業だけでなく自社に対する理解も深める必要があります。統合後のリスクや相手企業の文化、慣習を調査して、両社にとって働きやすい環境が整えば、M&Aの成功率も高まります。

PMIを行うタイミング

PMIは、M&Aが成約する前からはじめておく必要があります。また、M&Aによる成果を維持するために、PMIが明確に終わるタイミングはありません。別組織だった会社が統合するということは、短期間で慣れるものではないため、M&Aが成約する前から準備を行い、成約後も続けていくのが一般的です。

M&Aで期待しているシナジー効果が発揮されるのは、成約から1年程度は後なので、準備期間から含めるとPMIは長期的なプロジェクトといえるでしょう。長期的なプロジェクトなので、関係者のモチベーションを高めることも大切です。

買い手企業と売り手企業の経営者やM&Aの担当者、現場従業員など、モチベーションを高く保つ環境作りが欠かせません。各部署の関係性を築くためにも、MPIは可能な限り早めに着手する必要があるのです。

PMIを成功に導くポイント

次に、PMIを成功に導くポイントを3つ解説していきます。

PMIを成功に導くポイント

  • 経営方針の共有
  • 業務オペレーションやシステムの統一
  • 従業員の不安を取り除く

それぞれ詳しく見ていきましょう。

 

経営方針の共有

PMIを成功させるためには、経営方針の共有が欠かせません。そもそも、経営者が経営ビジョンやM&Aの目的を明確にしておくことも大切です。

経営方針が定まっていなければ、目標なく計画を立てることになるため、効率的とは言えません。経営者は明確な経営方針を持っていたとしても、共有されていなければ意味がありません。

しかし、経営方針が明確になっており、従業員にも共有されていれば、ゴールから逆算して計画を立てて実行できます。

また、PMIの場合は、適切にKPIを設定して、定期的に進捗を確認する必要もあるでしょう。計画的に施策を進めていき、チーム全体を目標達成のために先導するリーダーシップを持った経営者や人材がいればMPIの成功率は大きく高まります。

 

業務オペレーションやシステムの統一

業務オペレーションやシステムの統一は、数多くあるMPIの中でも、特に難易度の高い取り組みの1つです。

たとえば、業務効率化に関するものでは、「自分の仕事がなくなるのでは?」と実務を担当している従業員が不安を感じて協力してくれないケースがあります。

また、システムの変更では、「従来よりも時間がかかる」「慣れるまでミスが増える」など、ネガティヴな要素も少なくありません。業務オペレーションの変更は組織全体に影響する分野でもあるため、慎重に進める必要があります。

そのため、業務オペレーションやシステムの統一は、急いで実行するべきではありません。いつまでに実行しなければいけないのかを明確にして、焦らずに正確さを重視して進めていきましょう。

従業員の不安を取り除く

従業員の不安を取り除くことも、PMIの重要な課題です。基本的には経営者が「M&Aを実行する必要性」と「M&Aの目的」をすべての従業員に説明して、理解してもらう必要があります。

売り手企業の中には、「会社を乗っ取られた」「社長に捨てられた」このようにM&Aを捉える従業員もいるのです。また、買い手企業の従業員としても変化は避けられないため、不安を感じる人は少なくありません。

現場の従業員に負担がかかることは間違いないため、事業拡大のプランや新規事業への参入、コストダウンなど、ポジティブな要素を発信することが大切です。

買い手企業と売り手企業の経営者が意気投合して、同じ経営方針を掲げていても、現場の従業員が不安なままではM&Aの成果を最大化させることはできないでしょう。

PMIを行う際の注意点

M&Aを実行する上で必ず必要なPMIですが、以下のような注意点があります。

PMIを行う際の注意点

  • 自社の「当たり前」を強要しない
  • 継続的な成長を目指す
  • 変化を受け入れる

M&Aを成功させるためには、MPIを計画通りに実行し続ける必要があります。PMIの担当者はM&Aにおいて重要なポジションなので、注意点を理解しておきましょう。

自社の「当たり前」を強要しない

売り手企業よりも買い手企業の方が規模が大きく、経営体制が整っているケースが一般的です。

そのため、デューデリジェンスの結果報告を受けて、売り手企業のことを未熟に感じてしまうかもしれません。その結果、「この程度は当たり前」「このやり方ではダメ」など、相手企業にとっての「当たり前」を否定してしまうケースがあります。

しかし、このように相手企業のルールを一方的に否定する発言は、MPIの成功を妨げる大きな原因となります。そもそも中小企業の場合は、会計システムが未導入の場合や、現金の取り扱いルールが決まっていない場合など、体制が整っていないケースの方が多いのです。

「変更することでどんなメリットがあるのか」を説明して、コミュニケーションを取りながらプロセスを進めていきましょう。

継続的な成長を目指す

M&Aは一種の投資であるため、資本の回収を前提として売り手企業を探します。

そのため、買い手企業の担当者としては、M&Aが成約した後に投資資金の回収に責任を感じるのは当然でしょう。しかし、焦りやプレッシャーから、短期間での資本の回収を目指してはいけません。

特に、買い手企業と売り手企業で信頼関係の築けていない統合直後は、シナジー効果も発揮しづらいため、大幅な変革は現場に混乱を招きます。M&Aが成約して間もない頃から完璧なコントロールを目指しても、売り手企業のモチベーションを下げる可能性が高まります。

PMIの担当者として責任感を持つことは大切ですが、基本的にM&Aは長期的なプロジェクトであるケースがほとんどです。短期的な収益にこだわるよりも、継続的な成長を目指しましょう。

変化を受け入れる

M&Aを成功させるには、買い手企業も売り手企業も変化を受け入れる覚悟が必要です。売り手企業よりも買い手企業の方が規模が大きいケースが一般的ですが、売り手企業の方が優れている点は統合先の会社に引き継がれます。

そのため、どちらの会社においても、多少の変化は避けられないのです。業務オペレーションが変更された場合は慣れていないため、ミスが多発したり、今までよりも時間がかかってしまうケースもあるでしょう。

しかし、長期的な視点で見れば会社の成長のために必要なのであれば、M&A直後の生産性の低下は受け入れる必要があります。変化による混乱やミスの多発などは、あらかじめ予測できることなので、対処法をセットで考えておくことがPMIでは重要です。

 

PMIの流れ・進め方

次に、PMIの進め方について解説していきます。

PMIをやみくも進めてしまうと、さまざまなトラブルが起きる原因になりますし、シナジー効果の発揮も大幅に遅れてしまうでしょう。具体的にどのように業務を進めていくのかを、理解しておきましょう。

PMIの代表的な進め方

  • PMIチームの結成・リスクの検討
  • 従業員への発表・現場へのインタビュー
  • 100日プランの作成・取り組み
  • 取り組み状況の把握

それぞれ詳しく解説していきます。

PMIチームの結成・リスクの検討

M&Aを成功させるには、MPIの早期着手が欠かせません。MPIの実施が遅れるほどシナジー効果の発揮や収益の回収が遅れるため、可能な限り早めに着手する必要があるのです。PMIでは、統合を進めていくためのリーダーを選任して、売り手企業の現場に担当者を送り込む場合もあります。

また、専門的な知識が必要になる経理や、財務の分野でタスクをこなせる人材がいない場合は、外部にPMIを委託することも検討しましょう。その後、PMIチームが結成したら、具体的なリスクを検討していきます。

PMIを進める上でもっとも大切な点は、現場の混乱を最小化することです。M&Aにおいて現場の混乱は必然なので、混乱による被害をいかに小さく抑えるかを検討しておきましょう。

従業員への発表・現場へのインタビュー

M&Aの成約後は、買い手企業と売り手企業の関係者に、統合の内容を発表します。特に、従業員への発表は今後のモチベーションに大きく影響を与えるため、内容や発言は慎重に選ぶ必要があるでしょう。

相手企業を選んだ理由やM&Aの目的、統合するメリットなど、ポジティブな内容をメインに伝えます。また、雇用の維持や事業の継続など、「M&A後も安心して働ける」ことを明確に発言することも大切です。

従業員への発表が終われば、役員や現場担当者にインタビューを実施して、各事業の実態を把握しましょう。いくらデューデリジェンスに時間とコストをかけたとしても、現場とギャップがあることは珍しい話ではありません。M&Aについてどう感じているのか・不安に思っていることはあるか・挑戦したい事業はあるかなど、現場の意見を吸い上げてPMIを実行していきましょう。

100日プランの作成・取り組み

100日プランとは、M&Aの成約から100日間のPMIのスケジュールのことです。つまり、100日プランの作成は、統合後3ヶ月間の実行プランを立てることを意味します。

顧客対応や従業員の個人面談など、重要度の高い取り組みを優先的に100日プランに組み込んでいきましょう。ただし、PMIの担当者は、従来の業務と並行してPMI業務を進めているのが実情です。

PMI業務だけを担当できるケースは稀なので、実際に業務を担当する人の負荷を考慮してスケジュールを作成してください。また、100日プランが終わっても、PMIが完了するわけではありません。

100日プランの取り組みが完了すれば、次のプランを立てて実行するため、100日プランにすべての業務を詰め込む必要はないのです。

取り組み状況の把握

100日プランが完了したら、取り組み状況を把握しておく必要があります。進捗状況や成果を確認して、次の実行プランに活かしましょう。

また、データだけでなく、現場従業員のモチベーションや人間関係についても確認が必要です。対立関係ができているなど、早急に対応が必要な場合もあるため、定期的な取り組み状況の把握は欠かせません。

その後は、M&Aの成約から1年後を節目として、買い手企業と売り手企業の関係性や実行した施策の進捗状況を振り返りましょう。M&Aの成約から1年程度、経過すればシナジー効果の発揮にも期待できます。

実行できる施策の幅も広がるため、会社がより成長できるプランを立てて、実行と改善を繰り返していきましょう。

PMIを担当できる従業員がいない場合はどうすればいい?

PMIで取り扱う業務範囲は非常に広く、自社に対応できる従業員がいない場合もあるでしょう。しかし、M&Aを進める上でPMI担当者は必須なので、外部の専門家への委託も検討してください。

また、PMIの責任者はいるが人的リソースに余裕がない、短期間で処理したいタスクが多いなどの場合にも、外部委託が有効です。ただし、MPIの業務を、外部に丸投げするのはおすすめできません。

当然、依頼する範囲が広がるほどコストがかかりますし、M&AやPMIのノウハウが自社に蓄積しないというデメリットがあります。可能な限り自社で対応して、外部に委託する業務を明確にして、専門家に相談しましょう。

まとめ

この記事では、PMIの意味や重要性、進め方について解説しました。PMIとは、M&Aの契約が完了してから、期待していた成果を最大化させるためのプロセスを意味します。

M&Aはプロジェクトが進むと、統合すること自体が目的になってしまい、いわゆる「買いっぱなし」の状態になることもあります。シナジー効果の早期発現や事業拡大など、M&Aを成功させるためには、PMIに注力する必要があるのです。

適切な価格で親和性の高い会社と統合できたとしても、PMIが失敗すると、見込んでいた成果を達成できない可能性もあります。会社の成長のために必要な変化を受け入れてもらうためには、現場の従業員が納得できるだけのコミュニケーションを図る必要もあるでしょう。

MPIの業務を進めていると想定外のトラブルが発生することも多いため、担当者には柔軟な対応が求められます。