経営統合とは?事例からわかるメリット・デメリット、注意点を解説

投稿日: 投稿者: M&A BASE

経営統合とは、複数の会社で共同出資を行い親会社を設立して、出資した会社が親会社の傘下に入る経営戦略の1つです。
おおまかな意味合いは理解していても、合併との違いやメリット・デメリットまで理解している人は意外と多くありません。

また、経営統合にもいくつかの種類があるため、それぞれの流れや違いを理解しておく必要があります。
この記事では、経営統合の意味や合併との違い、メリット・デメリットについて詳しく解説していきます。

経営統合には、多くのメリットがある一方で、デメリットや注意点もあるため、ぜひ参考にしてください。

この記事でわかること

  • 経営統合とは
  • 経営統合と合併の違い
  • 経営統合と「資本提携」「業務提携」の違い
  • 経営統合のメリット・デメリット
  • 合併のメリット・デメリット
  • 経営統合の事例
  • 経営統合を行う際の注意点

経営統合とは?

経営統合とは、複数の会社で共同出資を行い親会社を設立して、出資した会社が親会社の傘下に入る経営戦略の1つです。
親会社は、出資した会社を子会社としてグループ全体の管理・運営を実施します。基本的に経営統合の場合は、実施後も子会社の法人格は維持されるのです。

親会社に複数の子会社が持株を集中させることで経営統合は完了しますが、持株会社には、「事業持株会社」と「純粋持株会社」の2種類があります。

事業持株会社とは、子会社の持株を保有するだけでなく、自社でも独立した事業を行っている会社のことです。
一方で、純粋持株会社は子会社の株式を管理することだけを目的としており、グループ全体をコントロールすることが主な目的となります。

グループ内の子会社同士は兄弟会社となり、会社としてのつながりはより強固なものになるでしょう。ただし、それぞれの法人格は維持されるため、後述する合併と比べると関係性は弱いと言えます。

「経営統合」と「合併」の違い

「合併」とは、複数の会社が1つの会社になる経営戦略のことです。
合併する会社の1社のみを残す方法と、新しい会社を設立する方法がありますが、いずれも残った会社の法人格は消滅させます。

経営統合と合併は「複数の会社の意思決定機関が1つになる」と言う意味では同じですが、両者には大きな違いがあります。それは、それぞれの法人格が消滅するか・存続するかの違いです。

経営統合の場合は、持株を親会社に集中させるだけであって、子会社の法人格は維持したまま事業を続けていきます。対して、合併は合併先の会社以外の法人格は、すべて消滅させるしかありません。
経営統合と合併はよく混同されていますが、この2つの経営戦略は似て非なるものと言えるでしょう。

経営統合と資本提携、業務提携の違い

「資本提携」や「業務提携」も、経営統合と混同している人がいます。

資本提携とは、複数の企業が資金や技術、ノウハウを提供し合って、特定のプロジェクトの解決を図る施策のことです。資本提携の場合は、会社同士で株式の移動がありますが、経営統合は1つの親会社に株式を集中させます。
特定の事業のみで協力関係を結びたい場合などは、資本提携が最適です。

また、業務提携とは、複数の会社で特定の事業に取り組む施策のことを指します。業務提携は明確な定義がある専門用語ではありませんが、基本的に会社同士で人材や技術、ノウハウを共有して事業に取り組みます。

経営統合の場合は株式や資金の移動が必ずありますが、業務提携は協力関係を結ぶ程度で留まるケースがほとんどです。

経営統合の種類

経営統合には、主に以下3つの種類があります。

株式移転方式:親会社を新たに設立して既存の会社が傘下に入る方法
株式交換方式:既存の会社を親会社にして、出資した会社を子会社とする方法
抜け殻方式:親会社の事業や資金を子会社に移動させる方法

種類によって株式を移動させる過程が異なるため、違いを理解しておきましょう。

株式移転方式

株式移転方式とは、子会社が発行する株式を、新しく設立した会社に移動させる方法です。株式の移動を持って親会社と子会社の関係性が完成して、実施後は親会社がグループ全体をコントロールします。

株式移転方式は、複数の会社で行うだけでなく、1社のみで実施することも可能です。ただし、基本的には複数の会社で株式移転方式を行うケースが多いため、共同株式移転とも呼ばれています。

株式移転方式を行うことで新設した親会社の子会社となりますが、株式の移転以外には大きな変化はありません。そのため、役員や従業員、取引先への心理的な影響が少ない方法です。

株式交換方式

株式交換方式は、既存の会社に他の会社の持株を移動させる方法です。「株式移転方式」と「株式交換方式」の違いは、親会社を新しく設立するか、既存の会社を親会社にするかです。

既存の会社を親会社にして、出資した会社を子会社とする方法が「株式交換方式」となります。
株式交換方式は、取得対価として親会社の株式を利用できるため、新しく親会社を設立する株式移転方式よりも必要なコストが小さいという特徴があります。

2社間で親子関係を結ぶため、子会社となる会社の株式を親会社となる会社に、100%移転するのが一般的な方法です。当然、株式交換方式でも子会社の法人格は残ります。2社間による、協力関係の強化や経営の効率化が株式交換方式の目的です。

抜け殻方式

純粋持株会社を設立する場合は、抜け殻方式を利用します。抜け殻方式とは、親会社の事業や資金を子会社に移動させる経営統合の方法です。
親会社に残るのは子会社の株式のみで、文字通り「抜け殻」になることから、抜け殻方式と呼ばれています。

基本的には、独自の事業を持たない「純粋持株会社」を設立する際に用いられる方法です。親会社となる会社は子会社に事業や設備などを子会社に譲渡して、実施後はグループ全体のコントロールを目的とします。

いずれの種類も最終的に「親会社が子会社の管理・運営を行う」と言う点は同じですが過程が異なるため、それぞれの違いや特徴を理解しておく必要があります。

経営統合のメリット

次に、経営統合のメリットを解説していきます。

経営統合のメリット

  • ブランドイメージや企業文化を維持できる
  • 合理的な意思決定ができる
  • 風評被害によるリスクが少ない
  • 従業員が安心して働ける

それぞれ詳しく見ていきましょう。

ブランドイメージや企業文化を維持できる

経営統合は親会社となる相手に持株を移動させるだけなので、子会社となった後も法人格を残したまま事業を継続できます。会社が培ってきたブランドイメージや企業文化をそのまま維持できるため、取引先や顧客に不安を与えることがありません。

子会社になった後も、グループ全体のルールや方向性を守っていれば、独自に事業を発展させることもできます。問題がある場合は株主としての権利を行使して経営に介入してきますが、子会社の独立性を尊重して自由にビジネスを行えるケースが一般的です。

また、同じグループ会社になっても法人格は別なので、自社以外の会社が不調な時でも影響を受けづらい点も大きなメリットです。

合理的な意思決定ができる

経営統合は親会社が子会社の株式を100%保有することになるため、経営権は親会社に委ねられます。特に純粋持株会社は独自の事業を持たないため、グループ全体のコントロールを目的としており、小会社とは違った視点から合理的な意思決定を行えます。

自社の事業のみに集中し過ぎた場合、グループ全体にとっては大きなマイナスになる施策を行っていることに気付かない場合もあるでしょう。しかし、親会社であればこのようなトラブルを早急に発見して、適切に対処できます。

経営統合によって設立された親会社であれば、グループ全体を考慮した経営戦略で、それぞれの会社のさらなる成長に期待できるでしょう。

風評被害によるリスクが少ない

経営統合を行うと、親会社の傘下に入り、それぞれの会社は兄弟会社となります。ただし、同じグループとはいえ、あくまでも別の会社なので、風評被害によるリスクが少ない点も経営統合のメリットです。

合併であれば複数の会社が1つの会社になるため、その他の会社に事業による悪い影響を大きく受けてしまうでしょう。FacebookやTwitter、Instagramなど、最近はSNSが非常に大きな力を持っています。最近はネットでの炎上をきっかけに倒産してしまうケースも多く、どの会社も風評被害のリスクを抱えていると言えるでしょう。

経営統合であれば風評被害の影響は1社のみに抑えられる可能性が高いため、リスク回避の観点からも経営統合にはメリットがあります。

従業員が安心して働ける

経営統合を実施しても会社の従業員や事業は継続されるため、安心して働いてもらうことができます。合併の場合、吸収される側の会社で働いている従業員は「給与はどうなるのか」「担当している業務はどうなるのか」など、さまざまな不安を感じさせてしまうでしょう。

従業員に不満が溜まり、混乱している状況ではパフォーマンスは低下して、業務に支障をきたす可能性もあります。しかし、経営統合であれば実施後も大きな変化はないケースがほとんどなので、従業員にストレスを与える心配がありません。新しい経営戦略を実施する上で、「従業員を混乱させない」と言う点は非常に大きなメリットです。

経営統合のデメリット

経営統合には、さまざまなメリットがありますが、デメリットもあります。

特に、以下3つのデメリットには注意しなければいけません。

経営統合のデメリット

  • グループの組織図が複雑化する
  • 無駄なコストが発生しやすい
  • 協力関係の構築に時間がかかる

それぞれ詳しく見ていきましょう。

グループの組織図が複雑化する

経営統合を実施した結果、グループ全体の組織図が複雑化して、業務効率が落ちてしまう可能性もあります。同じグループになったとはいえ、元々は関係のない別の会社です。
経理や人事などの部署はグループ内に1つで十分な場合でも、それぞれの会社で業務を行うケースが一般的なので、効率的とは言えないでしょう。

組織図が複雑化すると、採用基準やシステムを統一するためには、時間もコストもかかります。グループの組織図が複雑化する恐れがある場合は、経理専門の会社を子会社にするなどの対策が必要です。

また、グループ内で技術やノウハウを共有して事業を進めるのは難しく、シナジー効果に期待するのであれば合併の方が最適です。

無駄なコストが発生しやすい

無駄なコストが発生しやすい点も、経営統合のデメリットです。グループの子会社が増えるほど、同じような業務を行っている部署が増えていきます。
たとえば、経理や人事などの間接業務を行っている部署が代表的な例で、共通している業務は可能な限り統一して無駄なコストを抑えましょう。

各社で共通している業務を親会社が見直して、アウトソーシングするのも1つの解決策です。それぞれの会社で、同じシステムを購入するなども無駄なコストと言えるでしょう。

異なる会社の業務を統一するのは非常に難しく、同時進行も必要なので、無駄なコストの発生は経営統合の大きな課題です。

協力関係の構築に時間がかかる

経営統合は子会社の独立性を尊重して、それぞれが自由に事業を行います。自社の業務だけを考えればメリットですが、子会社が独立しているということは、協力関係の構築に時間がかかるデメリットにもなるのです。

合併や業務提携であれば協力して事業を行うことを前提なので、協力関係の構築は比較的簡単です。しかし、経営統合で同じグループになったとしても、あくまでも別の会社なので、複数の会社で共同して事業を発展させるのは得意ではありません。

シナジー効果に期待するのであれば、株式を保有している親会社がリーダー的な役割を果たす必要があります。グループ会社合同で、ノウハウやスキルの共有、勉強会の実施など、時間をかけて協力関係を構築していきましょう。

合併のメリット

経営統合とよく比較される合併ですが、以下のようなメリットがあります。

合併のメリット

  • 会社の規模が大きくなる
  • シナジー効果に期待できる
  • 経営の合理化を図れる

合併のメリットを理解することで、経営統合との違いをより深く理解できます。

それぞれ詳しく見ていきましょう。

会社の規模が大きくなる

会社が合併を行う最大のメリットは、組織拡大に伴う収益の増加です。

会社の規模が大きくなるため、必然的に事業の規模も大きくなるケースも珍しくありません。合併先が影響力のある会社であれば社会的な信用度も上がるため、ビジネスシーンではさまざまなメリットがあるでしょう。
また、同業他社と合併を行えば、必然的に業界内の順位は向上しますし、ライバルも減ることになります。

業界内での優位性を高めるために、現在のライバル会社と合併するケースも珍しくありません。会社の規模が大きくなるということは、販路も拡大するケースが一般的なので、仕入れや製造の量が増えた結果、コスト削減などのメリットも生まれるでしょう。

シナジー効果に期待できる

合併は経営統合とは違い、同じ会社になるため、ノウハウやスキルを共有しやすい環境です。そのため、シナジー効果にも期待できるため、今までは不足していたスキルやリソースを補完し合うことでより大きな結果を生み出せる可能性があります。

合併する企業同士の強みを生かすことができれば、予測していた業績を大きく上回るケースも珍しくありません。ただし、シナジー効果を発揮するには、合併前の企業調査はもちろん、合併後も人間関係の構築や社内ルールの統一などを徹底する必要があります。

また、人員増加による人件費や業務の増加にも注意しなくてはいけません。合併の際にはイレギュラーな業務が増えやすいため、通常の業務を抑えて、シナジー効果を発揮しやすい環境を整えましょう。

経営の合理化を図れる

複数の会社が1つにまとまることで、それぞれの会社に存在していた部署を統合すれば、人件費は大幅に削減できるでしょう。特に、人事や経理、総務などの部署は会社ごとの1つで十分なので、合理的な組織再編が可能となります。

人的リソースを強化したい部署に人員を割けるなど、柔軟に経営判断を下せる点も合併ならではの特徴です。また、合併を行うことで、会社ごとに独立していた関連部署や社内ルール、システムなどを統一できます。合併は経営統合よりも組織がシンプルになるため、業務の効率化を図りやすいと言えるでしょう。

経営統合では「親会社と子会社」の関係性になりますが、合併は「同じ会社」になります。そのため、経営者からの意思伝達も早く、目的意識も統一しやすいことが合併のメリットです。

合併のデメリット

合併にはさまざまなメリットがある一方で、当然デメリットもあります。

以下2つのデメリットには、特に注意が必要です。

合併のデメリット

  • 従業員や取引先に混乱を招く
  • 株価が低下する可能性がある

それぞれ詳しく見ていきましょう。

従業員や取引先に混乱を招く

合併を行うと、従業員や取引先に混乱を招く可能性があります。
特に従業員は、自分の働いていた会社がなくなることに対して、強い反発感を抱いてしまうことも考えられるでしょう。基本的に合併後も大きな処遇の変更がないケースがほとんどですが、十分な説明がなければ、退職を選ぶ従業員が続出するかもしれません。

また、ブランドや会社を贔屓にしていた取引先や顧客が合併をきっかけに、離れてしまう原因にもなります。合併先の会社で不祥事やトラブルが発生すれば、自社には関係がなくても悪影響は避けられません。従業員や取引先に対する説明、合併先の調査などを怠れば、メリットよりもデメリットの方が大きくなることもあります。

経営統合よりも強固な関係性になると言うことは、良い影響だけでなく悪い影響も受けることを覚えておきましょう。

株価が低下する可能性がある

合併を発表すると株価が上昇するケースが一般的ですが、発表により株価が低下する可能性もあります。合併により株価が低下する主な理由は、投資家から理解を得られていないことです。投資家が合併によって十分な利益を得られない、リスクが大きいと判断すれば当然、株価は低下します。

また、株価は社内だけでなく外部の影響も大きく受けるものです。

たとえば、世界情勢の変化や物価の上昇など、社内とはまったく関係のない情報にも株価は左右されます。合併によって株価がどのように変化するかは、実際に行ってみなければ正解はわかりません。
理論的な話であれば予測は可能ですが、必ずしも予測通りに株価が変化するわけではない点は理解しておく必要があります。

経営統合の事例や成功例

経営統合は会社にとって大きなターニングポイントになるため、判断は慎重に行う必要があります。

本当に経営統合が自社にとって必要かどうかを判断するためにも、他社の事例を知っておきましょう。

経営統合の成功例

  • 「レスターホールディングス」×「バイテックホールディングズ」
  • 「Zホールディングス」×「LINE」
  • 「マツモトキヨシホールディングス」×「ココカラファイン」

まずは、国内企業で行われた、経営統合の成功事例を紹介していきます。

レスターホールディングス

2019年に、レスターホールディングス(旧UKCホールディングス)は、バイテックホールディングズと経営統合しました。両社はともに、ソニー製半導体・電子部品を主力商品として取り扱っている商社です。
業界内の急速な変化に対応することを経営統合の目的としており、新製品の開発や販路の拡大、生産性の向上などが期待されています。

レスターホールディングスとバイテックホールディングズは、競合他社としてライバル関係にある会社でしたが、2018年には同様に業界大手の加賀電子が、富士通エレクトロニクスを買収すると発表しました。

このように、自社の状況だけでなく、業界内や競合他社の状況を踏まえた上で、経営統合は実施されています。

Zホールディングス

2021年には、ZホールディングスとLINEが経営統合を行いました。親会社となる「新生Zホールディングス」では、Yahoo! JAPANやLINEを中心に事業規模の拡大を目的としています。
2023年8月現在では、すでに200以上の国内サービスをリリースしており、総利用者は3億人を超えるほどです。

「コマース」「ローカル・バーティカル」「フィンテック」「社会」の4つに注力すると発表しており、今後はAI技術の積極的な活用にも期待されています。

新生Zホールディングスの傘下には、Yahoo! JAPANやLINEだけでなく、PayPayやSoftBankなどメディアから通信まで幅広いインターネット領域をカバーしています。

マツキヨココカラ&カンパニー

2021年には、マツモトキヨシホールディングスとココカラファインが経営統合を行い、「マツキヨココカラ&カンパニー」が誕生しました。マツモトキヨシホールディングスとココカラファインは、いずれも日本最大級のドラックストアを運営しています。

経営統合のきっかけは、新型コロナウイルスの流行です。新型コロナウイルスの感染拡大により、マスクや消毒液、うがい薬の販売が好調で業界大手のドラックストアはほとんどが売上を伸ばしました。
しかし、都市型のマツモトキヨシホールディングスとココカラファインは、コロナ禍において売上が低下しており、お互いの弱みを補完することが経営統合の目的です。

両社はともにプライベートブランドの開発に力を入れており、販売店が増えることによって、売上の向上に期待できます。

経営統合の失敗事例

国内には、多くの経営統合の事例がありますが、成功している会社ばかりではありません。

M&Aや合併、経営統合の事例は成功事例ばかりが注目されています。

しかし、成功事例は再現性が低い場合が多く、本当に注目すべきは失敗事例です。

経営統合の失敗事例

  • 「パナソニック」×「三洋電機」
  • 「キリン」×「サントリー」
  • 「三越」×「伊勢丹」

業界大手の会社が経営統合したとしても、成功するとは限りません。

同じ轍を踏まないように、成功事例だけでなく失敗事例も知っておきましょう。

パナソニック

2008年に、パナソニックが三洋電機を買収して子会社化しました。その後もパナソニックは三洋電機に対して投資を継続的に行い、2011年には三洋電機の持株をすべて買収して、パナソニックの完全子会社となりました。世界的な電気メーカーであるパナソニックですが、三洋電機に対する投資額は8,000億円を超えていると言われています。

パナソニックが経営統合を行った目的は、三洋電機が持っている太陽電池などの「創エネ」に関する高い技術力と、パナソニックの技術力を掛け合わせるためでした。しかし、日本を代表する大手企業であるパナソニックであっても、リチウム事業は苦戦を強いられており、2013年の個別決済では7,000億円以上の評価損が計上されています。

キリン

国内大手の大手酒類・清涼飲料メーカーである「キリン」と、サントリーは2009年に経営統合の交渉を進めていました。
しかし、経営方針の不一致を原因に2010年には、経営統合の交渉が決裂したことが発表されています。

また、株主や従業員、顧客から理解を得られなかったことも交渉決裂の理由の1つです。キリンとサントリーの経営統合が実現していれば、コカ・コーラやアサヒビールの売上を上回っていたとされています。

キリンとサントリーが経営統合すると、国内ビール系飲料市場のシェアが50%以上になるため、独占禁止法に基づく公正取引委員会の承認が必要でした。経営統合は失敗に終わりましたが、両社は共同配送などで提携しており、協力関係は現在も続いています。

三越

国内大手百貨店の「三越」と「伊勢丹」が経営統合を行い、「三越伊勢丹ホールディングス」を新設することが発表されました。バブル崩壊後の百貨店業界は全体的に低迷しており、多くの百貨店が売上の低迷に苦戦しています。

「三越」と「伊勢丹」は生き残りをかけた経営戦略を模索しており、両社の利害関係は一致していました。経営統合後は新規事業の立ち上げや店舗リニューアルなど、さまざまな改革を予定していましたが、人的リソース不足が原因で順調には進みませんでした。

外国人観光客による爆買いブームの終焉やECサイトの発展、専門店の台頭など、百貨店業界の規模は年々縮小しています。三越伊勢丹ホールディングスは、2022年3月期の通期業績で営業損失63億円を計上し、2期連続の赤字となったことを発表しました。

経営統合を行う注意点

次に、経営統合を行う際の注意点を解説していきます。

経営統合の注意点

  • 統合経営ができない場合がある
  • 業務効率が低下する可能性がある

すべての会社が経営統合を行えるわけではありませんし、必ずしも成功するとは限りません。

経営統合の過程はやや複雑なので、関連する法律も把握しておく必要があります。

それぞれの注意点を見ていきましょう。

統合経営ができない場合がある

そもそも株式会社しか、経営統合は行えません。

経営統合では、子会社となる会社が新設した親会社に持株を移転させるため、株式を発行していない有限会社にはできない経営戦略です。例外として特例有限会社は株式を発行していますが、株式移転による完全子会社化はできない仕組みになっています。

また、経営統合の規模が一定以上になる場合は、公正取引委員会への届出が必要です。

公正取引委員会への届出が事前に必要なケース

  • いずれか1社の国内売上高の合計額が200億円を超える場合
  • 他のいずれか1社の国内売上高合計額が50億円を超える場合

参考:合併の届出制度(独占禁止法第15条第2項)|公正取引委員会

上記に該当する場合は手続きの手間も増えて、経営統合が完了するまでの期間も長引きます。

業務効率が低下する可能性がある

経営統合を行った結果、業務効率が低下する可能性があります。

グループ内に複数の兄弟会社が存在しているため、組織が拡大するほど同一の業務をしている関連部署が増えていきます。経営者視点だと、人事や経理、総務などのバックオフィス部署はグループ内に1つあれば十分と考えるでしょう。

しかし、同じグループの兄弟会社だとしても、別の会社には違いないため、すぐに複数の部署をまとめるのは簡単ではありません。経営統合のメリットでもある子会社の独立性は、業務効率の観点から言うと、無駄なコストが発生しやすいのです。

経営統合に関するよくある質問

最後に、経営統合に関するよくある質問に回答していきます。

  • 経営統合するとリストラされますか?
  • 経営統合するとどうなりますか?
  • 経営統合は従業員にどんな影響がありますか?

疑問を残さないために、それぞれ確認しておきましょう。

経営統合するとリストラされますか?

経営統合が行われても、リストラの可能性が低いです。
経営統合は新設した親会社の傘下に入ることになりますが、子会社の法人格は維持されるため、事業や従業員も継続されるケースが一般的です。配置転換や希望退職、退職勧奨が行われることは考えられますが、急なリストラが行われる心配はほとんどないと言えます。

また、合併なども雇用契約を継続することを前提とするため、合併や経営統合を理由に従業員が解雇されることは基本的にありません。

経営統合するとどうなりますか?

経営統合を行うと、親会社の完全子会社となります。ただし、原則として子会社の独立性は尊重されるため、現場単位では大きな変化がないケースも珍しくありません。

また、グループの親会社には「事業持株会社」と「純粋持株会社」の2種類があります。
事業持株会社の場合は、親会社が独自の事業を展開しており、純粋持株会社の場合は、グループ全体のコントロールが主な目的です。組織は複雑化しますが、兄弟会社同士の技術やノウハウを共有することで、シナジー効果にも期待できるでしょう。

経営統合は従業員にどんな影響がありますか?

大きな影響はありません。経営統合における最大の変化は、株主の変更です。子会社の持株は親会社が100%保有することになりますが、従業員は子会社と雇用契約を結んでいます。

そのため、株主に変更があっても従業員の給与が大幅に下がったり、遠方に配属されたりすることはほとんどありません。子会社の従業員や事業をそのまま維持できる点が、経営統合のメリットです。

まとめ

この記事では、経営統合の意味や合併との違い、メリット・デメリットについて詳しく解説しました。
経営統合とは、複数の会社で共同出資を行い親会社を設立して、出資した会社が親会社の傘下に入る経営戦略の1つです。グループ内の子会社同士は兄弟会社となり、会社としてのつながりはより強固なものになるでしょう。

株式の移転は伴いますが、経営統合は大きな資金を用意しなくても、大幅な組織再編ができます。ただし、無駄なコストが発生しやすいなどのデメリットもあり、手間も時間もかかる手続きが必要です。

また、それぞれの法人格が維持される点はメリットでもありますが、合併と比較すると協力関係は弱いと言えるでしょう。組織再編を検討する際は、経営統合だけでなく、M&Aや合併などと比較して自社に最適な方法を選択してください。