M&Aとは?事例からわかる目的やメリット・デメリットを解説
M&Aとは、「Mergers(合併) and Acquisitions(買収)」の略語で、文字通り、会社の合併と買収を意味します。
一般的には、複数の会社が1つになる「合併」や、買い手企業が売り手企業を取得する「買収」をM&Aと言います。
しかし、広義的な意味としては、会社の合併や買収だけでなく、提携もM&Aに含める場合もあるのです。
また、M&Aは買い手企業と売り手企業で目的が異なりますし、メリット・デメリットが一致するとは限りません。
この記事では、M&Aの意味や目的、種類などを詳しく解説していきます。国内で行われたM&Aの事例や、適切な相談先についても紹介しているので、ぜひ参考にしてください。
この記事でわかること
- M&Aの意味と目的
- M&Aの種類
- M&Aを行うメリット・デメリット
- M&Aの進め方
- M&Aの事例
- M&Aの相談先
M&Aとは?
M&Aとは、「Mergers(合併) and Acquisitions(買収)」の略語で、文字通り、会社の合併と買収を意味します。
狭義的な意味としては、吸収合併や新設合併などの「合併」と、株式譲渡や新株引受、第三者割当増資、株式交換などの「買収」を指す言葉です。
しかし、広義では、資本提携や業務提携などの「提携」をM&Aに含める場合もあります。
最近はM&Aが活発に行われており、2019年に実施されたM&A件数は4,000件以上です。
2020年は新型コロナウイルスの影響で3,700件程度まで減少していますが、2021年と2022年のM&A件数は共に2019年を上回っています。
参考:1985年以降のマーケット別M&A件数の推移|マールオンライン
このように、国内のビジネスシーンでは、M&Aが活発化しているのです。
M&Aの目的
次に、M&Aの目的を見ていきましょう。
しかし、M&Aは買い手企業と売り手企業では、実施する目的が異なります。
買い手企業の目的 | 売り手企業の目的 |
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M&Aは「自社だけでは解決できない課題」を解決するために実施される経営戦略です。
具体的なM&Aの目的を、買い手企業と売り手企業ごとに知っておきましょう。
買い手企業の目的
買い手企業がM&Aを実施する目的は、主に以下の3つです。
- 事業規模の拡大
- 新規授業への参入
- スケールメリットの活用
それぞれ詳しく解説していきます。
事業規模の拡大
買い手企業がM&Aを実施するもっとも大きな目的は、事業規模の拡大です。
自社と同じ業界の会社とM&Aを行うことで、事業が拡大するだけでなく、業界内のシェアも向上します。
また、事業と関連性のある会社とM&Aをすることで、事業領域の拡大を目的としているケースもあるでしょう。
M&Aを行うことで、自社に足りていない技術やノウハウ、人材などを獲得できるため、スピーディーな成長戦略を展開することが可能です。
事業規模の拡大を目的としている場合は、「自社の強みを活かすこと」と「自社の弱みを補えること」が売り手企業を探す条件となります。
買い手企業は顧客や営業販路なども取得できるため、成長に必要な時間を大幅に短縮できます。
新規事業への参入
新規事業への参入を目的に、M&Aが実施されるケースも珍しくありません。
自社で一から新規事業を立ち上げるよりも、すでに業界内で成功している会社とM&Aをした方が、リスクを抑えて参入できます。
新規事業への参入は不確定な要素が多く、始めてみなければわからないノウハウもあるでしょう。
また、最近のビジネスシーンはどの業界も成長スピードが速く、時間をかけて準備をしていると他社に大きく差を付けられます。
そのため、新規事業への参入は可能な限り「時間」と「リスク」を抑えて実施する必要があるのです。
M&Aなら人材の育成時間もかかりませんし、売り手企業の金額によってはコスト削減にもつながります。
スケールメリットの活用
事業規模が大きくなって得られるメリットのことを、“スケールメリット”と言います。
いわゆる「数のメリット」と呼ばれるスケールメリットは、激しい競争が起きている業界では、大きな武器となります。
業界が成熟して会社同士の競争が熾烈になると、価格競争に発展するケースがほとんどです。
商品・サービスの価値を高めつつ、価格競争で勝ち残るためには、資本の強化が欠かせません。
M&Aを行いスケールメリットを獲得できれば、ブランド力や認知度が向上するため、業界内で有利に立ち回れます。
単純に、大量の仕入れが可能になるため、コスト削減にもなるでしょう。
また、会社としての規模が拡大すれば、採用力の強化にも期待できます。
売り手企業の目的
次に、売り手企業がM&Aを行う目的を見ていきましょう。
売り手企業がM&Aを実施する目的は、主に以下の3つです。
- 後継者問題の解決
- 創業者利益の獲得
- 従業員や事業の継続
それぞれ詳しく解説していきます。
後継者問題の解決
M&Aを行うと経営権が買い手企業に移動するため、後継者問題は解決します。
「親族がいない」「従業員に経営を継ぐ意志がない」など、後継者問題の解決方法としてM&Aは広く浸透しています。
事業が安定して将来性が明るい会社でも、後継者がいなければ存続することはできません。
中小企業経営者の平均年齢は年々上昇しており、後継者問題に困っている会社は決して少なくありません。
親族や社員に経営ができる人がいなければ、M&Aは最適な後継者問題の解決方法と言えるでしょう。
M&Aを実施すれば、売り手企業は消滅しますが、従業員の雇用は守られます。
会社自体は消滅しますが、事業や従業員、顧客との関係性を維持して後継者問題を解決できるのは、M&Aならではのメリットです。
創業者利益の獲得
上場していない企業は株式を現金化しにくい、というデメリットがあります。
特に、中小企業は上場していないケースが多く、創業者として十分な利益を得られないこともあるでしょう。
しかし、M&Aであれば買い手企業と交渉して、お互いに納得する金額が売り手企業の創業者に支払われます。
経営者として引退してからの生活費に充てる場合が多いですが、新しい事業の資金のためにM&Aを選択する場合もあります。
そのため、最近はM&Aで会社を売却することを前提に、起業する人たちも少なくありません。
創業者利益の獲得であれば、IPOの方が有名ですが、M&Aの方が時間とコストを抑えて実行できます。
M&Aでは将来的な会社の価値や利益も考慮して金額が決まるため、短期間で資本を獲得できるでしょう。
従業員や事業の継続
M&Aを行った場合、従業員の雇用や既存事業は、買い手企業が継続するケースがほとんどです。
売り手企業が培ってきた技術やノウハウは、すべて買い手企業に受け継がれます。
これまで会社のために働いてくれた従業員と、その家族の生活を守ることは売り手企業の経営者にとって非常に大きな目的となるでしょう。
また、M&Aは会社そのものを譲渡するだけでなく、1つの事業だけを売却することも可能です。
複数の事業を展開している場合、いくら投資しても業績が伸びない事業もあるでしょう。
自社で収益を産めない事業を売却することで、成功している事業に資金を集中させることができます。
M&Aは会社の譲渡だけでなく、展開している事業を整理するために実施される場合もあるのです。
M&Aの種類
広義的な意味でM&Aの種類は、非常に多岐にわたります。
さまざまな経営戦略をM&Aに含める場合がありますが、まずは以下の代表的な種類から理解していきましょう。
M&Aの種類
- 株式譲渡
- 事業譲渡
- 合併
- 会社分割
- 株式交換
- 第三者割当増資
- 資本業務提携
- 資本参加
それぞれ詳しく解説していきます。
株式譲渡
株式譲渡とは、売り手企業の株式を買い手企業、もしくは個人に譲渡して、経営権を移動させるM&Aの手法です。
M&Aの中でもっとも活用されている手法で、国内では中小企業がよく株式譲渡を選択しています。
他の種類と比較して手続きが簡単で、株主の変更以外に大きな変化はありません。
また、株式譲渡は株式を買い手企業に譲渡させるだけでなので、売り手企業の法人格は消滅しません。
売り手企業は株式の50%以上を交付して、買い手企業は価値に見合う支払いを行います。
売り手企業は50%以上の株式を譲渡すれば株式譲渡は成立しますが、株式を100%移動させるのが一般的です。
株式の支払いは、原則として現金が用いられます。
事業譲渡
事業譲渡とは、売り手企業の事業を、買い手企業に譲渡するM&Aの手法です。
すべての事業を譲渡させるだけでなく、一部の事業のみを売却するケースもあります。
事業譲渡における「事業」には、設備や不動産、組織はもちろん、人材やブランド、財産、ノウハウなども含まれます。
事業用資産などの譲渡は、事業譲渡の「事業」に含めないのが一般的です。
ただし、事業譲渡で移動させる財産や権利は、買い手企業と売り手企業同士の契約内容によって異なります。
また、従業員の移動を伴う場合は、該当者の同意が必要で、買い手企業と雇用契約についても交渉しなければいけません。
合併
合併とは、複数の会社を1つの会社にさせるM&Aの手法です。
合併は「吸収合併」と「新設合併」の2つがあります。
吸収合併とは、合併により消滅する会社の権利や財産などを、すべて存続する会社に移動させる方法です。
一方、新設合併では、新しく設立した会社に、既存の会社が保有する権利や財産などを継承させます。
新設合併を選択した場合は、実務で必要となる許認可を再取得したり、新規上場扱いになるなど、やや手続きが複雑になります。
そのため、基本的には吸収合併の方が多く活用されている傾向が強いです。
吸収合併と新設合併は「新しく会社を設立するか」が大きな違いですが、新設会社の対価として株式や社債など以外を利用できるかの違いもあります。
株式や社債など以外を対価として利用できるのは、吸収合併を選択した場合のみです。
会社分割
会社分割とは、売り手企業が行っている事業の権利や義務を、買い手企業に譲渡するM&Aの手法です。
利益率の高い事業のみを存続させたい場合に活用される方法で、組織再編や経営再建など、さまざまなシーンに適しています。
また、事業の権利や義務の一部だけを譲渡することも可能です。
多角経営の見直しや慢性的な人手不足の解消など、会社分割の目的は多岐にわたります。
会社分割には、既存の会社に事業の権利や義務を譲渡させる「吸収分割」と、新しく設立した会社に譲渡させる「新設分割」の2つがあります。
この2つは基本的に流れやメリット・デメリットは同じで、新しく会社を設立するか否かが主な違いです。
株式交換
株式交換は、売り手企業で保有している株式のすべてを、買い手企業に譲渡させるM&Aの手法です。
株式を100%買い手企業に移動させるため、売り手企業と買い手企業は完全親子関係となります。
買い手企業は多額の資金を持っていなくても発行済み株式を対価にできるため、キャッシュフローが悪化しないという特徴があります。
資金調達も必要としないため、スピーディーに組織再編を行える方法です。
また、株式を移動させる会社を新しく設立する「株式移転」という方法もあります。
株式交換は、買い手企業と売り手企業が完全親子会社の関係性になることで、グループ全体を強化させることが目的です。
株式移転の場合は、主に持株会社を設立させるために行われます。
第三者割当増資
第三者割当増資とは、売り手企業が新たに株式を発行して、買い手企業に移動させるM&Aの手法です。
ベンチャーキャピタルが、未上場の新興企業に第三者割当増資を行うニュースを見たことがある人も多いでしょう。
新たに株式を発行して資金調達を行う「新株発行増資」の1つで、上場企業の場合は買い手企業の利益保護に配慮する必要があります。
ただし、第三者割当増資は売り手企業が発行する株式の50%を超えない場合、M&Aに含まれません。
買い手企業が売り手企業の株式を50%以上、引き受けると経営権が移動するため、M&Aと表現されます。
第三者割当増資は関係性の強い会社や個人から資金を調達するため、会社同士の結びつきがより強固になります。
資本業務提携
資本の移動を伴わない業務の協力関係を築くことを、業務提携と言います。
技術やノウハウ、人材などを共有して業務を行うことで、シナジー効果に期待できる業務提携ですが、資本の移動がないため、会社同士のつながりは強くありません。
より強い協力関係を築きたい場合は、資本の移動を伴う資本業務提携が活用されます。
実務上では、業務提携と資本提携を同時に実施することを、資本業務提携と表現するのが一般的です。
ただし、「業務提携」「資本提携」「資本業務提携」などの言葉は、法的に定義されている言葉ではありません。
また、業務提携よりも効率的に事業を成長させることができますが、契約の解消が難しい、というデメリットを抱えています。
資本参加
資本参加とは、経営権を移動を伴わない範囲で資金提供を行うM&Aの手法です。
他のM&Aと違い、資本提供を受ける会社の法人格や、経営権を残したまま協力関係を築けます。
広義としてはM&Aですが、経営権を獲得しない点は、資本参加の大きな特徴と言えるでしょう。
また、拒否権を行使できない範囲内に抑えるため、資本提供する会社に譲渡する株式は全体の3分の1以下にするのが一般的です。
資本参加は、資本を提供する側の会社の方が、資本を提供される側の会社よりも規模が大きく、資金に余裕があるケースがほとんどです。
はじめは資本参加としての協力関係だったとしても、その後、経営統合に発展する場合もあります。
M&Aのメリット
次に、M&Aのメリットを解説していきます。
M&Aを実行するメリットは、買い手企業と売り手企業で以下のように異なります。
買い手企業のメリット | 売り手企業のメリット |
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それぞれ詳しく見ていきましょう。
買い手企業のメリット
買い手企業のM&Aを実行するメリットは、主に以下の3つです。
- 技術・ノウハウ・人材の確保
- 事業・販路の拡大
- コストの削減
それぞれ詳しく解説していきます。
技術・ノウハウ・人材の確保
技術・ノウハウ・人材の確保は、M&Aを行う買い手企業にとって大きなメリットです。
新規事業を立ち上げる際には、業界のノウハウや情報、技術の習得が必要不可欠でしょう。
競合他社よりも優れた技術やノウハウを培うには、時間もコストもかかります。
しかし、M&Aを行えば、優れた技術やノウハウ、許認可、権利などを短期間で確保できます。
採用や教育が上手くいかず既存事業の拡大に苦戦している状況でも、同じ業界の会社とM&Aの契約を結ぶことができれば、人材の悩みはすぐに解決するでしょう。
日本は生産年齢人口が減少しており、優秀な人材の確保はさらに難しくなっていきます。
即戦力に期待できる中途採用も、自社のチームで力を発揮できるとは限りません。
M&Aで人材確保を行えば、すでに組織内で活躍している人を、チームごと自社に引き入れることが可能です。
事業・販路の拡大
M&Aでは経営権だけでなく、特定の事業のみを買収することもできるため、自社のメイン事業だけでなく、多角的な事業展開が可能になります。
激しい競争を生き残るためには、メイン事業の成功はもちろん、関連事業や他の業界でも通用するシナジー効果が必要でしょう。
単純に成功している事業を買収するのではなく、自社の既存事業にどんなプラスの影響を与えるのかが重要です。
また、M&Aには、事業だけでなく販路拡大のメリットもあります。販路拡大のためには、競合や市場、地域性などの再調査が必要です。
しかし、M&Aを行えば、顧客・取引先のデータや店舗、サイトを自社の販路として活用できます。
コストの削減
M&Aによって会社の規模が拡大すれば、必然的にスケールメリットによる、コストの削減につながります。
同業他社とM&Aを行えば、事業拡大に成功するため、仕入れや販売、物流など、さまざまなコストを大幅に削減できるでしょう。
また、コストの削減を目的にM&Aを実行するケースも珍しくありません。
たとえば、特定の事業で成功しているが、バックオフィス業務が疎かになっている会社であれば、大手企業の傘下に入ることで、自社の事業に注力できるでしょう。
キャッシュフローを悪化させる原因となりやすい人件費を削減できるため、会社の資源を将来性の高い事業に回せます。
売り手企業のメリット
次に、売り手企業がM&Aを行うメリットを見ていきましょう。
売り手企業がM&Aを行うメリットは、以下の3つです。
- 後継者問題の解決
- 技術やノウハウの継承
- 個人保証の解除
それぞれ詳しく解説していきます。
後継者問題の解決
中小企業の経営者にとって、後継者問題は深刻な課題です。
一般的な中小企業では、自社の従業員や親族から後継者を探すケースがほとんどです。
しかし、従業員が経営に関する知識を持たない場合や、そもそも継ぐ気がない、親族がいないなど、後継者の候補がいないことも珍しくありません。
M&Aで経営権を引き渡せば、会社は維持されますし、従業員の雇用も守られます。
また、廃業をするにしても、さまざまなコストが発生します。
M&Aで廃業を避けることができれば、価値に見合った創業者利益に期待できるでしょう。
技術やノウハウの継承
M&Aをせずに廃業を選択すると、これまで培ってきた技術やノウハウが消滅する可能性があります。
M&Aによる事業や経営権の譲渡は、今まで成長させてきた技術やノウハウも、買い手企業に引き渡すことが可能です。
また、いくら優秀な従業員でも廃業すれば、転職せざるを得ない状況になります。
廃業して転職するよりも、M&Aで現在のチームのまま働ける方が従業員は安心して業務に取り組めるでしょう。
技術やノウハウを継承して事業を維持することは、取引先の会社を守ることにもつながります。
個人保証の解除
個人保証とは、会社が金融機関から融資を受ける際に、個人が返済を保証することです。
中小企業の場合は経営者が個人保証を行って融資を受けているケースが多く、M&Aを実施しない理由の1つになっています。
しかし、M&Aの中には、個人保証を解除できるケースもあるのです。
買い手企業による融資の肩代わりや保証の請負などによって、個人保証は解除できます。
また、一定の条件を満たすことができれば、融資の返済を行わずに個人保証だけを解除するケースも可能です。
M&Aの売り手企業には「経営に困っている」というイメージが持たれがちですが、成長している会社が行うケースも珍しくありません。
M&Aのデメリット
次に、M&Aのデメリットを解説していきます。
M&Aを実行するデメリットは、買い手企業と売り手企業で以下のように異なります。
買い手企業のデメリット | 売り手企業のデメリット |
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それぞれ詳しく見ていきましょう。
買い手企業のデメリット
買い手企業のM&Aを実行するデメリットは、主に以下の3つです。
- 損益が拡大する可能性
- 人材の流出
- 取引先との関係の悪化
それぞれ詳しく解説していきます。
損益が拡大する可能性
M&Aは基本的に、買い手企業が既存事業の拡大や新規事業を開拓して、利益の向上を目指します。
しかし、M&Aをしたからと言って、必ず事業が成功するとは限りません。
M&Aでは、無形財産などの、いわゆる「のれん」も考慮して売り手企業の金額が決定します。
期待していたよりも収益が上がらずに、損益が拡大するリスクもあるのです。
また、買い手企業と売り手企業でのシナジー効果は予想と異なるケースも多く、予想していた結果にならないことも考えられます。
特に、複数のブランドが統一される場合、それぞれの特徴や強みを尊重しすぎてしまい、大きな変化がないケースも珍しくありません。
M&Aを行っても変化がなければ、想定していた利益は得られないでしょう。
人材の流出
M&Aを行うことで、人手不足を解消できるケースもあるでしょう。
しかし、M&Aをきっかけに、優秀な人材が他社に流出することもあります。
M&Aにおける売り手企業の従業員としては、評価制度や企業文化の変化、将来への不安など、さまざまなマイナスの要素があるのです。
売り手企業のメイン事業を担当している中心人物が退職すれば、想定していた価値が損なわれる可能性もあります。
人材の流出は技術やノウハウ、顧客との関係性など、失う価値は決して小さくありません。
M&Aが実行される前に売り手企業の従業員が働きやすい環境を構築し、特に重要な人物とは直接話し合っておくことも大切です。
取引先との関係の悪化
M&Aを行うことにより、取引先との関係が悪化する可能性もあります。
売り手企業が取引先とCOC(チェンジ・オブ・コントロール条項)を結んでいる場合、契約内容に制限がかかります。
COCはM&Aなど、売り手企業の経営権に移動があった場合に、契約内容の制限、もしくは解除ができる条項です。
M&Aが行われると、取引内容が変更されるケースも多く、売り手企業が築いてきた関係性が解消されることも考えられます。
売り手企業が取引先と結んでいる契約を確認して、必要であれば、取引先とも話し合っておく必要があるでしょう。
当然、すべての取引先と交渉するのは現実的ではないため、重要度の高い取引先を調査して、連絡を取る必要があるかを検討します。
売り手企業のデメリット
次に、売り手企業がM&Aを行うデメリットを見ていきましょう。
売り手企業がM&Aを行うデメリットは、以下の3つです。
- 後継者問題の解決
- 技術やノウハウの継承
- 個人保証の解除
それぞれ詳しく解説していきます。
従業員の雇用条件を変更されるリスク
売り手企業におけるもっとも注意しておくべきデメリットは、従業員の雇用権を変更されるリスクです。
従業員の移動を伴うM&Aの場合、買い手企業と従業員は雇用契約を結び直します。
後継者問題から従業員の雇用を守るためにM&Aを行っても、雇用条件を大きく変更されると従業員と、その家族が生活に困る可能性があります。
人材の流出は売り手企業だけでなく、買い手企業にとっても大きなデメリットです。
M&Aが実行される前に従業員の雇用契約についても、お互いに相談しておく必要があります。
特に、事業の重要な業務を担当している従業員に関しては、個別に確認しておいてもいいでしょう。
シナジー効果の発揮に時間がかかる
会社には、それぞれの企業文化や習慣があります。
自社では普通の考え方でも、他社からすると違和感を感じることは意外と少なくありません。
M&Aによって同じ会社になったとしても、いきなり買い手企業の文化に合わせるのは簡単ではないでしょう。
そのため、期待しているシナジー効果が発揮されるまでに、想定している以上の時間がかかるケースがあります。
企業文化のミスマッチは離職率を高めるリスクがあるため、M&Aを実行した直後から利益率の向上のみにこだわると大きな損失が発生するかもしれません。
買い手企業と売り手企業で、どんな違いがあるのかをあらかじめ把握して、相手企業のことを理解しておくことが大切です。
買い手企業が見つからない
当たり前ですが、M&Aを実現するには、売り手企業を買収してくれる買い手企業が必要です。
買い手企業探しは、「そもそも相手企業が見つからない」「想定していた金額よりも低い」など、さまざまな問題が発生します。
買い手企業は売り手企業の将来的な価値を算出して金額を判断するため、売り手企業の経営者が想定していた金額を大きく下回ることもあるでしょう。
M&Aの買い手企業を探すには、公認会計士や銀行、証券会社、仲介会社など、さまざまな相談先やサービスがあります。
効率的にM&Aを進めたい場合は、仲介会社に依頼するのがおすすめです。
M&A専門の仲介会社に相談すれば、全国から買い手企業を探してもらえます。
M&Aの流れ・進め方
ここからは、M&Aの進め方を解説していきます。
M&Aの進め方は種類によって多少異なりますが、基本的には以下のような流れで行われます。
- 準備・相手企業の選定
- 相手企業の調査・交渉
- 基本合意書の締結
- 契約・経営権の譲渡
それぞれ詳しく見ていきましょう。
準備・相手企業の選定
M&Aの実行は、買い手企業と売り手企業の両社にとって、非常に重要なターニングポイントとなります。
まずは、本当にM&Aを行う必要があるのかを、徹底的に検討しましょう。
M&Aの目的や条件、解決したい課題を明確にしておかなければ、M&Aの指針が定まりません。
また、M&Aを進めていくうちに、問題解決ではなく、「M&Aを実行すること」が目的になってしまうケースも珍しくありません。
自社でM&Aについて十分に検討できない場合は、仲介会社への相談も検討しましょう。
銀行や証券会社でもM&Aについて相談できますが、M&Aは仲介会社に相談するのが一般的です。
全国から相手企業を探してくれるだけでなく、M&A以外の選択肢を提案してくれるため、自社にとって最適な手段が見つかります。
相手企業の調査・交渉
M&Aを希望する相手企業の候補が絞れたら、調査を実施します。
企業概要や財務状況を調査して、M&Aを実施する価値があるのかを判断します。
また、仲介会社に依頼している場合は、買い手企業候補の情報をまとめた資料が開示されます。
その後、M&Aを行いたい会社が見つかると、経営者同士で面談を実施するのが一般的です。
経営方針や事業プランをすり合わせて、お互いにどんなメリット・デメリットがあるのかを確認して、理解を深めます。
M&Aの交渉において不利な条件の後出しは、相手企業に不信感を抱かせる原因となるため、あらかじめリスクについて説明しておきましょう。
この時点では、特に契約は結んでいないため、M&Aのプランを白紙に戻すことも可能です。
基本合意書の締結
経営者同士の面談を経て、M&Aを進めたい会社が見つかったら、基本合意書を締結します。
基本合意書では、これまでの交渉で決まっている条件や金額、M&Aのスケジュールなどを定めます。
また、基本合意書の締結が完了したら、買い手企業が売り手企業に対してデューデリジェンスを行います。
デューデリジェンスとは、買い手企業が売り手企業を調査することを意味する言葉です。
売り手企業の事業や財務、法務、税務など、あらゆる角度から調査を行い、買収する価値があるかどうかを見極めます。
売り手企業の規模によってデューデリジェンスの期間は異なりますが、中小企業であれば4日程度で完了するのが一般的です。
デューデリジェンスの結果を考慮して、売り手企業の金額が決定します。
契約・経営権の譲渡
ここからは、デューデリジェンスの結果を元に、最終契約の締結を目指します。
最終契約とは、文字通りM&Aの最終的な契約内容を定めるものです。
基本合意書を元に作成されるケースが一般的ですが、変更されている点もあるため、見落としのないように確認しておきましょう。
基本合意に法的な拘束力はありませんが、最終契約には法的な拘束力が発生します。
その後、最終契約に基づいて、経営権の移動手続きとM&Aのクロージングを行います。
クロージングの手続きを正しく行われていなければ、M&Aが法的に認められない可能性もあります。
株主総会や取締役会など、すべての手続きが終わるまで手抜かりなく進めていきましょう。
M&Aの事例
次に、M&Aの事例を見ていきましょう。
M&Aの代表的な国内事例
- 「ニトリホールディングス」×「エディオン」
- 「LINE」×「ファイブ」
- 「楽天」×「Fablic」
事例を知ることで、M&Aがどんなシーンで活用されているのかが理解できます。
それぞれ詳しく解説していきます。
「ニトリホールディングス」×「エディオン」
2022年に「ニトリホールディングス」×「エディオン」は、資本業務提携によるM&Aを行いました。
ニトリホールディングスは、家具・インテリア用品を販売している「ニトリ」「島忠」の持株会社です。
一方、エディオンは競争の激しい家電業界で上位にいる大手企業です。
どちらも生活に欠かせない商品を販売していることから、お互いのノウハウを共有し、事業拡大のためにM&Aが実現しました。
家具と家電という親和性の高い商品なので、ニトリはプライベートブランドで小型家電の開発・販売を本格的にはじめています。
「ニトリに行けば家具も家電も揃う」という利便性を強みにするため、家電メーカー出身の従業員を積極的に採用するなど、販路拡大に積極的です。
また、ニトリの店舗で家電を配置するスペースは限られていますが、エディオンに卸すことで販売数量や大量生産も可能になりました。
「LINE」×「ファイブ」
「LINE」は2017年に「ファイブ」と資本業務提携を実施しました。
資本業務提携によってLINEはファイブの株式を100%取得しており、完全子会社化に成功しています。
国内で知らない人はいないコミュニケーションツール「LINE」ですが、他にもさまざまなサービスを多角的に展開しています。
ファイブは動画広告配信プラットフォームを2014年からリリースしており、開発・運営の技術やノウハウを持っています。
また、LINEは広告事業も展開していましたが、動画広告の精度に苦戦していました。
そのため、両社の強みを活かしたプラットフォームの連携により、事業拡大のために本業務提携が行われました。
その結果、LINEマンガやLINE NEWS、LINE BLOGなど、「LINE」というプラットフォーム上で、さまざまなメニューの展開に成功しています。
「楽天」×「Fablic」
楽天は、2016年にFablicを買収しています。
Fablicは、フリマアプリサービスを提供している会社です。
個人間売買をサポートする「フリル」を手がけるFablicは、女性にターゲットを絞ることで、特に若年層の女性から支持されていました。
楽天は、楽天市場をメイン事業に、金融やスポーツなどの分野でも成功している日本を代表する大手企業です。
しかし、楽天市場は幅広い層をターゲットにしており、特定のジャンルに特化したサービスを持っていませんでした。
楽天は「フリル」を買収することによって、自社のフリマサービスである「ラクマ」の事業拡大を狙っていました。
その後、ラクマの事業拡大は成功し、2018年には「楽天」と「Fablic」で吸収合併が実施されています。
M&Aの相談先
最後に、M&Aの相談先を紹介していきます。
M&Aは専門的な知識が必要なので、外部機関への相談が欠かせません。
そのため、主な相談先を知っておきましょう。
M&Aの相談先
- 公認会計士・税理士
- 銀行・証券会社
- 商工会議所
- M&A専門の仲介会社
それぞれ詳しく解説していきます。
公認会計士・税理士
M&Aの代表的な相談先として、公認会計士や税理士が挙げられます。
M&Aを実行するには必ず、デューデリジェンスを行います。
デューデリジェンスは、公認会計士や税理士などの外部機関に依頼するのが一般的です。
公認会計士には財務デューデリジェンス、税理士には税務デューデリジェンスを依頼します。
公認会計士は主に買収金額について、税理士は売り手企業の財務諸表について、正確に調査してもらいます。
また、効率化の観点から、財務デューデリジェンスや税務デューデリジェンスは、同じグループの会計事務所に依頼しましょう。
公認会計士や税理士は特定の分野に関する専門的な知識を持っていますが、M&Aの相手企業を探すことには長けていません。
そのため、相手企業の候補が決まっていないのであれば、他の相談先がおすすめです。
銀行・証券会社
銀行や証券会社が、M&Aのアドバイザーとして動くケースも珍しくありません。
銀行や証券会社は金融業界のプロフェッショナルなので、ファイナンシャルアドバイザーとしては最適な相談先です。
資金調達に関する相談を得意としているため、資金面で困っている場合は依頼する価値があるでしょう。
ただし、銀行や証券会社は金額の大きいM&Aでなければ、取り扱ってくれない場合があります。
外資系銀行の場合は最低でも数億円以上、日系証券会社でも数千万円程度が目安となっています。
また、M&Aの成約時に支払う成功報酬は、最低でも数百万円〜数千万円は必要になるでしょう。
金融に関する専門的な知識を持っていますが、依頼費用が高額な点がデメリットです。
商工会議所
中小企業であれば、商工会議所などの公的機関でもM&Aについて相談できます。
商工会議所は中小企業との業務に慣れており、悩みや文化を深く理解してくれるケースがあります。
買い手企業も売り手企業も中小企業であれば、相談を検討してみましょう。
ただし、商工会議所に相談するには会員になる必要があります。
商工会議所の会員なら相談から着手までは無料で対応してくれますが、会員になるには費用がかかります。
すでに商工会議所の会員になっているのであれば、1度相談してから他の機関を利用するかを検討する方法もあります。
M&A専門の仲介会社
もっともおすすめの相談先は、M&Aを専門的に取り扱っている仲介会社です。
仲介会社は民間企業なので、買い手企業と売り手企業の中立的な立場として、交渉や手続きを先導してくれます。
また、仲介会社は、ファイナンシャルアドバイザーとしての役割を担ってくれる場合も珍しくありません。
仲介会社はM&Aが専業なので、実務経験が豊富な点が特徴です。
ただし、仲介会社は成功報酬がメインの収益なので、M&Aを実施することを前提に話が進められがちです。
金額を抑えて幅広い選択肢を提案してほしい場合は、仲介会社に相談してみましょう。
まとめ
この記事では、M&Aの意味や目的、種類などを詳しく解説しました。
M&Aは自社の資源を最大化して事業拡大や問題解決を図る経営戦略で、買い手企業と売り手企業のどちらにもメリットとデメリットがあります。
メリット | デメリット | |
買い手企業 |
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売り手企業 |
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また、M&Aを実行するには、専門的な知識や実務的な経験が欠かせません。
損益が拡大するなどのリスクもあるため、M&Aの実施には慎重な判断が求められます。