業務提携をわかりやすく解説!種類や進め方、成功事例を紹介

投稿日: 投稿者: M&A BASE

業務提携とは、他社と協力し合って、自社のみでは達成が難しい課題を解決することを指します。

おおまかな意味は知っているが、「実際にどんなことをするのかはわからない」という人も多いでしょう。この記事では、業務提携の意味や目的、代表的な進め方について解説していきます。

業務提携には、多くのメリットがある一方で、デメリットや知っておくべき注意点もあるのです。
難しい専門用語は使わずに、わかりやすく解説しているので、ぜひ参考にしてください。

この記事でわかること

  • 業務提携の意味と目的
  • 業務提携と資本提携・業務委託・M&A・業務連携の違い
  • 業務提携の種類
  • 業務提携のメリットとデメリット
  • 業務提携の注意点
  • 業務提携の成功事例
  • 業務提携の進め方

業務提携とは?

業務提携とは、複数の企業で協力し合って、特定のプロジェクトに取り組む施策のことです。企業同士で技術やノウハウ、資金などを出し合うことで、協力関係を築きます。

業務提携で提供し合う資源の例

  • 技術
  • ノウハウ
  • 資金
  • 人材
  • 設備
  • 販路

新規事業への参入や新商品の開発など、新規プロジェクトで利用されるケースばかり目立っていますが、販路拡大や業務の外注化など、さまざまなシーンで行われています。
また、業務提携と似ている言葉に、資本提携・業務委託・M&A・業務連携の4つがありますが、それぞれの違いを知っておきましょう。

業務提携と資本提携の違い

資本提携とは、複数の企業が資金や技術、ノウハウを提供し合って、特定のプロジェクトの解決を図る施策のことです。

業務提携と資本提携の主な違いは、株式取得の有無にあります。

資本提携の場合は、資金を提供する代わりに株式を譲渡しますが、業務提携の場合は、株式の移動はありません。
どちらかの企業が株式を取得するのが一般的ですが、お互いに株式を持ち合う形で協力関係を築く資本提携もあります。
ただし、取得する株式は経営権に影響のない、発行済株式総数の3分の1以下です。

資本提携は、株式の移動がない業務提携よりも企業同士の結びつきが強く、長期的なプロジェクトに向いています。また、企業同士で技術や資本、人材を共有することによって、最終的にM&Aに発展することも珍しくありません。

業務提携と業務委託の違い

業務委託とは、雇用契約を結ばずに、外部の企業や個人事業主に特定の業務を委託することを指します。

主な特徴は、委託者と受託者の関係が対等という点です。正社員であれば企業と社員は主従関係があるため、社員は企業の指示を無視することはできません。
しかし、業務委託では委託者と受託者の関係が対等なので、受託者は自分の裁量で業務を進めていきます。

特定の業務のみを外注する際には業務委託が最適ですが、「取引先の1つ」程度の関係性に留まるケースがほとんどです。業務提携よりも関係性は希薄になりがちなので、短期〜中期のプロジェクトで外注したい業務が明確に決まっている時に適しています。
ちなみに、「業務委託」という契約方法は、法律上は存在しません。

法律上で定められている、「委任契約」と「請負契約」の総称を一般的に業務委託と言います。

業務提携とM&Aの違い

M&Aとは、「Mergers and Acquisitions(合併と買収)」の略称です。
企業の合併と買収を意味する言葉で、複数の企業が1つの企業にまとまったり、企業が他社を買うことを意味します。

ひと昔前は「M&A=外資系企業に経営権を奪われた。」このようなイメージが強かったですが、現在は成長戦略の1つとして定着しました。

資本の移動を伴わない業務提携とは違い、M&Aは資本や株式のすべて、もしくは一部を買い手企業に譲渡します。M&Aを行うと、売り手企業は買い手企業の子会社になるケースがほとんどでしょう。
ただし、株主に変更があるだけで、従業員や資産は譲渡せずに、すべての事業を継続させることも可能です。

業務提携と業務連携の違い

業務連携は、明確な定義がある専門用語ではありません。簡単な情報共有でも業務提携と呼ぶこともありますし、契約書を交わして大きなプロジェクトに共同して取り組むケースもあります。業務提携と業務連携に明確な違いはなく、どちらも複数の企業で特定のプロジェクトに取り組む施策です。そのため、広義的に業務連携は業務提携の一種であると言えるでしょう。

ただし、業務提携は業務連携と比較して、契約書の作成や利害関係の一致など、より形式的な施策を指すのが一般的です。
業務連携は、「複数の企業が協力すること」を意味する言葉に過ぎません。

また、業務連携の場合は企業間だけでなく、自社内の部署間で協力することを指すケースもあります。

業務提携の目的は?

業務提携の目的は、リスクやコストを最小限に抑えてプロジェクトを成功に導くことです。

自社だけですべての業務をまかなえる状況が理想ですが、社内リソースには限界があります。特に新規事業の参入などは、技術やノウハウ、設備など、自社だけでプロジェクトを進めるには莫大なコストと時間が必要です。

技術を持った人材の育成や採用、新規製造ラインの立ち上げ、販路の確立など、社内リソースを最大限に活用しても足りないことはよくある話でしょう。

このような状況で、業務提携の強みが活かされます。業務提携を行うことで、他社の技術やノウハウ、設備などを活用して、プロジェクトの成功率を高められるのです。
ただし、利害関係が一致しなければ、業務提携は結べません。

そのため、プロジェクトの成功率や自社との相性よりも、相手企業のメリット・デメリットを正確に把握することが提携先選びでは大切です。

業務提携の種類は主に4つある

業務提携は複数の企業で協力し合って、特定のプロジェクトに取り組む施策のことです。

企業同士で足りない部分をカバーし合うことで、自社だけでは難しい課題の解決を目指します。業務提携で提供し合うのは、資金や技術だけでなく、人材や設備、販路、ブランド力など、多岐にわたります。
そのため、業務提携は非常に幅広いビジネスシーンで活用されており、さまざまな種類があるのです。

具体的には、以下の4つにわかれます。

  • 販売提携
  • 技術提携
  • 生産提携
  • その他

それぞれ詳しく見ていきましょう。

販売提携

販売提携とは、自社よりも強固な販売チャネルを持つ企業に、商品やサービスの販売を委託する業務提携の種類です。
メーカーが商品やサービスを製造して、販売店に卸す「販売店契約」や「代理店契約」、ブランド力やノウハウを提供する「フランチャイズ契約」など、販売契約にもいくつかの種類があります。

生産の一部を委託する生産提携と似ていますが、販売提携は商品を作る側と販売する側の線引きが明確です。
商品やサービスを提供する側としては、他社の販売力によって認知度を拡大できますし、商品開発に自社リソースを集中させることができます。

販売する側としては、自社で確立している販路と相性の良い商品やサービスを提供することで、売上や新規事業の販売実績を積み上げることが可能です。

技術提携

技術提携とは、一方の企業が持っている技術を活用して、もう一方の企業が商品やサービスの研究・開発をする業務提携の種類です。
技術提携は主に、「ライセンス契約」と「共同研究開発契約」の2つにわかれます。

ライセンス契約とは、特許などの特殊なノウハウを持っている企業に使用料を払って、特許やノウハウを特定の条件下で使用できる契約です。
共同研究開発契約では、特許などの特殊なノウハウの研究・開発を、複数の企業で協力し合います。

他社の技術やノウハウ、人材、設備などを活用することで、自社にはない新しいアイデアが生まれやすくなるでしょう。自社では活用できない特許や技術、ノウハウだとしても、他社に提供することで、リスクなく安定した収入を得られる可能性があります。

生産提携

生産提携とは、工場や特殊な機械を持っている企業に対して、商品の生産を委託する業務提携の種類です。
生産提携は基本的に、「OEM(Original Equipment Manufacturing)」と「ODM(Original Design Manufacturing)」の2種類に分類されます。

OEMは、メーカーが研究・開発した商品を指定した製造方法で、生産技術を持った企業が生産する契約です。ODMでは、一方の企業が商品の開発から製造まで行い、メーカーのブランドで販売します。
つまり、OEMとODMの違いは、メーカーが商品の開発を行うか否かで、ODMの場合は、商品の企画から開発、生産までを委託します。

その他

業務提携は基本的に上記3つの種類が多く活用されていますが、他にもさまざまな種類があります。

資本提携:原材料などを複数の企業で仕入れることで、コスト削減を図る
流通提携:複数の企業で流通ルートを共有することで運送コストの低下を図る
包括提携:自治体と企業が協力して地域が抱えている問題の解決を図る

時代の変化と共に、業務提携の種類が増える可能性もあるでしょう。現在ある業務提携の方法だけでなく、自社にとってもっともメリットの大きい施策を検討することが大切です。

また、業務提携にこだわり過ぎずに、M&Aや業務委託も視野に入れて検討してください。

業務提携を行うメリット

業務提携を行うメリットは多岐にわたりますが、代表的なものは以下の3つです。

  • 必要な分野の技術力や生産力、販売力をピンポイントで補充できる
  • 新規事業が失敗するリスクを大幅に抑えられる
  • まとまった予算が必要ない

業務提携のメリットで、自社の問題が解決できるか把握しておきましょう。

それぞれ詳しく解説していきます。

必要な分野の技術力や生産力、販売力をピンポイントで補充できる

業務提携を行うことで、必要な分野の技術力や生産力、販売力をピンポイントで補充できます。
技術力があれば技術提携、生産力があれば生産提携など、自社の強みを最大限に活かせることが業務提携のメリットです。

販売できるだけの資金力やブランド力があるのであれば、自社に足りていないリソースを補充することで、さまざまな分野で業績を上げられます。自社で技術力や生産力、販売力を獲得するには、時間もコストもかかるため、基本的に長期的なプロジェクトになりがちです。
しかし、業務提携なら自社の得意分野のみに注力できるため、短期的な業績アップにも期待できるでしょう。

また、お互いの強みだけを活かしてプロジェクトを進めるため、協力関係を築きやすいという特徴もあります

新規事業が失敗するリスクを大幅に抑えられる

新規事業はリスクが高く、時間やコストだけでなく、技術力や設備、人材など、さまざまな社内リソースが必要です。特に参入障壁の高い事業はリスクが高く、自社リソースだけで挑戦すると成功率は決して高くありません。
しかし、業務提携を利用して、すでに成功している企業と提携することで、リスクを大幅に抑えられます。

新規事業への参入に欠かせない「情報」を持っている企業の力を借りることで、リスクを抑えて企業価値を高められます。技術力やノウハウ、販路やブランド力、特殊な設備など、自社だけの力で挑戦する必要はありません。

自社だけの視野では見えてこない考え方やノウハウ、技術を提供してもらうことで、リスクを抑えて新規事業を成功に導きましょう。

まとまった予算が必要ない

新製品の開発や設備の増設など、新しいプロジェクトの立ち上げで莫大なコストがかかるケースは珍しくありません。
しかし、業務提携を利用すれば、自社で用意する必要がないため、まとまった予算がなくてもプロジェクトを進められます。特に、設備と人材の獲得はコストがかかるため、業務提携との相性が良いと言えるでしょう。

また、資本提携やM&Aと比較しても必要な予算が少ないため、他の施策よりも気軽に契約を結べる点も大きなメリットです。
買い手企業はコストを抑えられますし、売り手企業も活かしきれていない資源で利益を望めます。

お互いに専門分野を担当できるため、スピーディかつ低予算でプロジェクトを組めることは、どちらの企業にとっても魅力的な要素です。

業務提携を行うデメリット

業務提携にはさまざまなメリットがある一方で、以下のようなデメリットもあります。

  • 自社の技術やノウハウ、人材が流出するリスクがある
  • 些細なトラブルでも関係解消につながる
  • 法的な問題が起きやすい

メリットだけでなく、デメリットも把握した上で業務提携を検討してください。

それぞれ詳しく解説していきます。

自社の技術やノウハウが流出するリスクがある

もっとも代表的なデメリットが、自社の技術やノウハウの流出です。大前提として、業務提携を行う際には秘密保持契約を締結して、情報漏洩を防ぎます。
しかし、相手企業が機密情報の管理に慣れていない場合もありますし、自社の従業員が誤って相手企業の情報を流出させてしまうリスクもあるでしょう。

技術やノウハウの流出は、訴訟などの大きなトラブルに発展する可能性があるだけでなく、顧客からの信頼も失います。外部の企業と深く関わりを持つため、いくら注意しても技術やノウハウの流出するリスクを、ゼロにすることはできません。

また、業務提携の期間内だけでなく、契約終了後に情報が漏洩するケースもあります。場合によっては大きな被害を被る可能性があるため、技術やノウハウの流出には十分に気を付けておきましょう。

些細なトラブルでも関係解消につながる

資本の移動なしに協力関係を築けることは業務提携のメリットでもありますが、簡単に関係解消につながるというデメリットでもあります。
特に業務提携による業績が想定以下だった場合は、すぐにプロジェクトが打ち切られる可能性もあるでしょう。

また、相手企業の担当者の退職など、些細なトラブルでも関係解消につながるほど企業同士のつながりが弱い場合もあります。そのため、数年かけて目標を達成するような長期的なプロジェクトでは、途中で頓挫するリスクが高いのです。

業務提携の相手先が契約を解除すると、もう一度パートナーを探し、交渉からやり直すことになります。場合によっては、プロジェクトを白紙に戻す必要もあるため、時間もコストも無駄になってしまうでしょう。

法的な問題が起きやすい

業務提携はM&Aや資本提携よりも気軽に契約できるため、リーガルチェックを行わずに技術やノウハウ、設備などの話を進めるケースが大半です。
業務提携の内容によってはほとんど資金の動きがないため、法的リスクを甘く見ている傾向があります。そのため、契約直前や直後になって正式にリーガルチェックを実施して、法的な問題が見つかることは珍しい話ではありません。

契約後に法的な問題が起きてしまうと、交渉や改善に時間を取られてしまいますし、すでに手遅れだったというケースも考えられるでしょう。
業務提携は関係が希薄になりやすいため、小さなトラブルでも大きな問題に発展しやすい特徴があります。

法的な問題に強い部署が自社にない場合は、外部の専門家にリーガルチェックを依頼しましょう。

業務提携の注意点

次に、業務提携を行う際の注意点を3つ解説していきます。

  • 利益配分と権利の帰属をあらかじめ明確にしておく
  • 自社の都合だけで一方的に契約を解除できない
  • プロジェクトチームで積極的に情報交換を行う

業務提携はプロジェクトを進める上で足りない資源を補える有効な施策ですが、契約すれば問題がないというわけではありません。

契約後に後悔しないために、注意点を把握しておきましょう。

利益配分と権利の帰属をあらかじめ明確にしておく

業務提携でプロジェクトを進めていくと、業務だけでなく、経費をお互いの企業で出し合うケースは珍しくありません。そのため、自社と相手企業で負担する、業務や経費を明確にしておきましょう。
どちらの企業がどこまで担当するのか、自社で負担する費用はいくらなのかなど、お互いの負担を明確にしておくことで些細なトラブルを防げます。

また、特に重要なのが「利益配分」と「権利の帰属」です。
利益配分や権利の帰属は訴訟などのトラブルに発展する可能性が高いため、具体的な基準を設けておきましょう。

企業の負担する割合によって利益配分や権利の帰属が決まるため、自社の目標に合わせて担当業務やコスト配分を交渉してください。

自社の都合だけで一方的に契約を解除できない

業務提携は継続することを前提とした契約になるケースが多く、自社の都合だけで一方的に契約を解除することはできません。そのため、業務提携で契約を解除するには、どちらか一方だけでなく両社の合意が必要となります。

経営状況の悪化や相手企業の業務に納得できないなど、正当な理由のない契約解除は認められないのです。現在は中〜長期的なプロジェクトを望んでいても、将来的に業務提携の縛りが自社を苦しめる可能性もあります。

そのため、契約書には、契約を一方的に解除できる状況や、一方的な契約解除による損害を補償する旨などを記載しておきましょう。
また、自動更新ではなく、短い契約期間からはじめることでリスクを最小限に抑えられます。

プロジェクトチームで積極的に情報交換を行う

業務提携によるプロジェクトを効率的に進めるためには、チームで積極的に情報交換を行いましょう。
特定の業務を丸投げする業務委託とは違い、業務提携は自社と相手企業での連携が欠かせません。合同ミーティングなどを定期的に行い、情報を共有して協力体制を徐々に築いていくことが大切です。

また、特定の社員が先導して協力関係を築くことも大切ですが、情報共有がしやすい契約になっているかも注意しておきましょう。
プロジェクトチームのメンバーが急に変更されるケースもあるため、書類などは誰が見ても理解できる内容にする必要があります。

業務提携の契約前から協力体制の重要性を共有して、お互いに信頼し合える関係性になれるように情報共有は積極的に行いましょう。

業務提携の成功事例

ここからは、業務提携の成功事例を紹介していきます。

  • 事例1:「ファミリーマート」×「TOUCH TO GO」
  • 事例2:「トヨタ」×「NTT」
  • 事例3:「日本気象協会」「伊藤忠商事」

業務提携はさまざまなビジネスシーンで活用されており、業界を越えて企業間の結びつきを強固にします。

自社と相性の良い企業を探す参考になるため、実際に成功している業務提携を知っておきましょう。

事例1:「ファミリーマート」×「TOUCH TO GO」

1つ目の成功事例は、「ファミリーマート」×「TOUCH TO GO」です。

国内最大級のコンビニチェーンであるファミリーマートは、最低賃金の引き上げによる人件費の高騰を問題視していました。
人件費の高騰は立地や売上に関係なく全店舗に影響があるため、早急な改善が求められました。

一方、TOUCH TO GOは、無人決裁店舗システムの開発に成功していましたが、システムの販売先の選定に苦戦していました。
ファミリーマートの店舗数は国内に16,000件以上あるため、無人決裁店舗システムの導入が決まれば、TOUCH TO GOは莫大な利益に期待できます。

そのため、人件費を抑えたい「ファミリーマート」と、大規模導入を望んでいる「TOUCH TO GO」は利害関係が一致して、業務提携を結ぶことになりました。無人決裁店舗システムを活用したファミリーマートの店舗は2021年から実現しており、今後も全国に展開していく予定です。

事例2:「トヨタ」×「NTT」

2つ目の事例は、「トヨタ」×「NTT」です。

世界的に有名な自動車メーカーのトヨタですが、電気自動車の分野では「テスラ」や「フォルクスワーゲン」など、他国のメーカーに差を付けられていました。
そこで、電気自動車で対抗するのではなく、新しい形の自動車の開発に舵を切りました。

また、日本の通信インフラを支えているのは、やはりNTTです。現在は民間企業ですが、元々は国営だったこともあり、通信業界では一人勝ちの状態が続いています。
しかし、近年のIT業界は急速に発展しており、「今後も通信業界で圧倒的な地位を確立できるか?」という懸念事項がありました。

そこで、新たな自動車の形を模索している「トヨタ」と、価値のあるサービスを生み出したい「NTT」が業務提携を行いました。また、トヨタはソフトバンクグループと事業提携を結んでおり、KDDIとは技術連携もしています。NTTは国内の大手通信キャリアである3社すべてと提携関係にあるのです。

事例3:「日本気象協会」×「伊藤忠商事」

3つ目の事例は、「日本気象協会」×「伊藤忠商事」です。

日本のファッション業界では、大量発注や過剰在庫に伴う廃棄処分が大きな問題となっています。また、商品のコモディティ化が進んでおり、利益率の低下も業界全体で危険視されるようになりました。

しかし、ファッション業界全体の変革が求められるため、企業単位での計画ではコストや人的リソースの問題から、解決の目処が立っていない状況が続いています。
そこで、日本気象協会が世界で培ってきたビッグデータをもとに、伊藤忠商事の技術力とノウハウを活かして、この問題の解決に取り組んでいます。

膨大な気象データを参考にして、正確な需要予測を行い、廃棄処分の大幅な削減を目指しています。

業務提携の代表的な進め方

業務提携の進め方は、企業やプロジェクトによって異なります。

ただし、基本的には以下のような流れで進めていくのが一般的です。

  1. 目標と課題の洗い出し
  2. 提携先のパートナー選び
  3. 秘密保持契約の締結
  4. 基本条件の交渉・基本合意書の取り交わし
  5. 提携先のパートナーとプロジェクトの調査
  6. プロジェクトチームの立ち上げ
  7. 最終交渉・提携契約の締結
  8. 業務提携のスタート

それぞれ詳しく見ていきましょう。

目標と課題の洗い出し

まずは、目標と課題の洗い出しからはじまります。

自社の現状を把握して、客観的に問題点を見つけることが大切です。自社の問題点や課題が見つかったら、業務提携の目的と目標を決めていきましょう。
業務提携では自社の強みを活かして社内リソースを最小限に抑えられるため、失敗するリスクを下げられることが大きなメリットです。

ただし、業務提携によって得られた利益は、提携先の企業にも配分されるため少なくなります。業務提携は契約を交えると、一方的に契約を解除することができません。

本当に業務提携による施策が最善の方法なのか、十分に検討してください。

提携先のパートナー選び

次に、提携先のパートナーとなる企業を選ぶ工程に進みます。

自社の強みを活かせることはもちろん、足りない部分を補ってくれる企業を選ばなければ、業務提携は成功しないでしょう。提携先の企業を見つける方法は、「自力で探す方法」と「第三者に紹介してもらう方法」があります。
ただし、基本的には第三者に紹介してもらう方法がおすすめです。

業務提携を検討していても、M&Aの仲介会社に相談することもできます。業務提携だけでなく、将来的にM&Aも視野に入れているのであれば、早めに関係性を築いておいた方がいいでしょう。

秘密保持契約の締結

提携先の企業の候補が絞れてきたら、正式に業務提携の契約を交わすための交渉を行います。
業務提携の交渉では、お互いの企業の機密情報や技術、ノウハウなどを開示するケースが多く、秘密保持契約の締結が必須です。

特に、以下5つの項目は必ず確認しておきましょう。

秘密情報の定義:どんな情報が秘密情報に該当するか
秘密保持義務:秘密情報の管理方法や、例外的に開示できるケースについて
目的外使用の禁止:秘密情報の使用範囲について
秘密情報の返還:必要に応じて秘密情報を破棄、返還してもらう条項
有効期限と存続状況:秘密保持契約の期限と効力について

秘密保持契約の締結なしで交渉を進めるのは、リスクが高く非常に危険です。

自社の技術やノウハウを守るためにも、秘密保持契約の締結を行ってから具体的な交渉に進んでください。

基本条件の交渉・基本合意書の取り交わし

業務提携の契約に向けて、基本条件や契約書について交渉していきます。

業務範囲や経費の扱い、利益配分、権利の帰属など、可能な限り公平に条件を定めていきましょう。基本条件を曖昧にしていると、トラブルが生じた際に解決までの期間が長引きます。
また、自社のメリットだけを考えていては交渉が進まないため、お互いが納得できる条件を提示しましょう。

基本条件の内容にお互いが納得できたら、基本合意書の取り交わしを行います。
ただし、基本合意書の締結は、M&Aや資本提携の場合は必ず行われますが、資本の移動を伴わない業務提携では省略するケースもあります。

プロジェクトの規模に応じて使い分けましょう。

提携先のパートナーとプロジェクトの調査

業務提携の最終的な契約を結ぶ前に、提携先パートナーとプロジェクトを再度、調査します。提携先パートナーの調査は主に、法務と財務を中心に、契約の実行が実現可能かどうかを調査していきましょう。

たとえば、相手企業にコスト面での体力がない場合、長期的なプロジェクトは途中で継続できなくなる可能性があります。交渉にかけた時間はもちろん、これまでにかけたコストがすべて無駄になるため、相手企業の調査は欠かせない業務です。

また、プロジェクトの成功率や失敗するリスクも正確に把握しておきましょう。業務提携を結んだとしても、プロジェクトが必ず成功するとは限りません。

本当に成功できるのか、成功した場合に見込まれる利益はいくらかなど、調査結果によってはプロジェクトの計画を練り直す必要があります。

プロジェクトチームの立ち上げ

提携先パートナーとプロジェクトの調査と並行して、プロジェクトチームの立ち上げを行います。
プロジェクトの各業務にふさわしい担当者を社内から選んで、提携後すぐに動けるように準備を進めていきましょう。

技術力やノウハウも大切ですが、業務提携では他社との協力が必要になるため、円滑なコミュニケーションスキルも欠かせません。相手企業との合同ミーティングを積極的に開催して、プロジェクトチーム内の協力関係を築いていきましょう。

最終交渉・提携契約の締結

最終交渉を終えたら、提携契約の締結に進みます。提携後の条件変更は時間も手間もかかるため、契約書はすべての項目を確認して、記載漏れがないか確認しておきましょう。

また、契約書は弁護士などの専門家に依頼して、必ずリーガルチェックを行います。契約書に法的な不備があると、トラブルに発展した際に、効力を発揮できない可能性があります。

最終交渉でお互いに納得できれば、業務提携の契約を交わします。
ただし、業務提携の契約書は定期的な更新が必要です。契約を更新する際や、法律に改定があった際には、契約内容を見直しておきましょう。

業務提携のスタート

業務提携を締結したら、プロジェクトがはじまります。

はじめての業務提携では他社との業務の進め方に違和感を感じたり、時には衝突することもあるかもしれませんが、プロジェクトを開始しなければ見えてこないこともあるため、現場の状況に合わせて柔軟な対応が求められます。

また、契約書がプロジェクトの実態に適していない場合は、適宜更新していきましょう。業務提携の締結は、あくまでもプロジェクトのスタートです。
個別に契約を結んで提携内容を変更するケースも多く、常にトラブルを未然に防ぐという意識を持って、協力関係を築いていきましょう。

業務提携の検討事項

最後に、業務提携を行う上で重要な検討事項を解説していきます。

  • 業務提携を行う明確な目的
  • 業務提携後の業務内容と担当範囲
  • 権利の帰属
  • 機密情報の取り扱い
  • 利益と費用の分配
  • 業務提携の契約期間・更新条件

業務提携では条件を曖昧に設定していることが原因で、大きなトラブルに発展するケースがあります。

いずれも重要な項目なので、すべて確認しておきましょう。

業務提携を行う明確な目的

業務提携の締結を行う際に目的は明確になっていることがほとんどですが、改めて確認しておきましょう。

交渉を進めていくうちに目的がズレていくことは珍しい話ではなく、常に明確な目的を意識して動いてください。プロジェクトの目的を記載しておくことはもちろん、プロジェクトのメンバーに理解してもらうことも大切です。
目的が明確になっているほど個々の役割や業務内容がはっきりするため、自分だけでなくまわりの人にも周知しておきましょう。

また、プロジェクトの目的を明確にすることで、契約書作成の際に指針として役立つため、スムーズに交渉が進みます。

業務提携後の業務内容と担当範囲

業務提携後の業務内容と担当範囲は、可能な限り正確に検討しておきましょう。

どちらの企業がどの業務に責任を持つのかを決めていなければ、業務内容が曖昧になるため、プロジェクトに支障をきたします。詳しい業務内容はスタートしなければ不透明な部分もありますが、あらかじめ検討しておけば、トラブルが見つかった際にすぐに対応できるでしょう。

また、相手企業だけでなく、自社のプロジェクトメンバーの業務内容や担当範囲を決めておけば、スタート直後から業務が捗ります。プロジェクトが順調に進んでいるケース以外にも、トラブル時の対応や対処法など、イレギュラーなケースを検討しておくと安心です。

権利の帰属

業務提携では、新たな商品やサービス、技術などが生まれるケースも珍しくありません。

たとえば、新技術の特許や共同開発した商品など、成果物や知的財産権が生み出された場合を想定して、権利の帰属を検討しておきましょう。業務提携は資本の移動を伴わないため、M&Aや資本提携と比較すると企業同士のつながりは強くありません。
そのため、突発的に契約が終了する可能性もあるため、権利の帰属は非常に重要な検討事項です。

契約書に権利の帰属を明記していなければ、契約終了後に商品やサービス、技術を取り扱えなくなります。思わぬ不利益を被る可能性があるため、基本条件締結の段階で、しっかりと検討しておきましょう。

機密情報の取り扱い

業務提携ではプロジェクトの内容によっては、機密情報の開示が必要なケースもあります。

技術やノウハウ、特許、顧客データなど、漏洩しては重大なリスクがある情報を、お互いに開示することで、研究・開発を発展させる提携は珍しくないでしょう。しかし、機密情報の取り扱いを間違えてしまうと、取り返しのつかない被害が発生する可能性もあります。

自社だけでなく、相手企業を守るために、機密情報の取り扱いについては十分な検討が必要です。また、機密情報の取り扱いを契約書に定めることはもちろん、プロジェクトチーム内でも情報を共有しましょう。
機密情報が漏れた場合の損害を予測して、情報漏洩のリスクもメンバー全員が知っておくべきです。

利益と経費の分配

利益や経費の配分は、自社の業績に直結する部分なので、交渉が難航しやすい項目です。基本的に利益の配分は、プロジェクトへの貢献度で決まります。特に、経費の負担については、あらかじめ細かく検討していないと、トラブルにつながるリスクが高いです。
資本の移動が伴わない業務提携だからこそ、「どちらの企業がいくら出すのか」はしっかりと検討しておくべきでしょう。

また、細かい金額を決めるだけでなく、支払日や支払い方法についても検討しておく必要があります。
利益や経費に関する交渉を曖昧にしておくとトラブルの原因になるため、時間をかけて両社が納得のできる配分を考えましょう。

業務提携の契約期間・更新条件

業務提携の契約期間を、あらかじめ定めておきます。契約期間が終了しても両社が同意すれば継続できるため、プロジェクトに合わせて適切な期間を設定しましょう。

また、契約期間だけでなく、更新条件についても検討しておくべきです。自動更新の有無や更新の条件などは、短期的なプロジェクトでも決まっていなければトラブルの原因となります。

そのため、更新の条件や契約解除の基準なども、プロジェクトごとに決めておきましょう。

まとめ

業務提携の意味や目的、代表的な進め方について解説しました。

業務提携には、自社の弱みをカバーできる、他社のリソースを使える、リスクを抑えられるなど、さまざまなメリットがあるため、多くの企業が活用しています。
M&Aや資本提携との大きな違いは、資本移動を伴わない点で、比較的気軽に契約を進められるでしょう。

ただし、業務提携の協力関係は希薄になりがちなので、自然消滅的に契約が終わってしまうケースも珍しくありません。

より強固な協力関係を他社と築きたい場合は、M&Aも視野に入れてプロジェクト内容を検討してください。